2009'10.03.Sat
背を流れ伝う湯は、ちょうどいい温度だった。
けれども己の中心は、湯以上の熱を孕んでいるのではないかと思うほど、激しい高ぶりを見せている。
今は白いタオルで隠れて見えないが、腿にかかった危うい一枚布を取り払えば、堂々と首をもたげた<自身>が現れることだろう。
とてもじゃないが、そのことを背後の少女に知らせることは出来なかった。
知られたいとも思わない。
「熱くないですか?」
主語の抜けた問いかけに、雪見は己の身体の高ぶりを見抜かれたのかと思い、答えに詰まる。
けれどもすぐさま、少女の問いかけが、湯加減のことであると気づき、己の先走った深読みに嘆きたくなった。
「ちょうどいい。」
「それなからよかった。」
片手では不自由だろうから、お背中をお流ししますよ。
突然やってきて冷蔵庫の中を漁り、お茶を飲んで、お手洗いに入り、すっきりした顔で出てきた少女は、呆然としている雪見を前に、突然そのようなことを口走った。
雪見は最初、少女の言葉を理解するまでに2分を要したが、テキパキと湯浴みの準備を始めた少女を静止する理性も働かず、気づけばこのような展開になっていた。
今の同居人にすら背中を流させたことは無いというのに。
しばらく姿を見せなかった少女は、一体どこで情報を手に入れたのか、あるいは偶然なのか、こしゃまくれた生意気な居候が居ない時をうまいこと選んでやってきたものだ。
あの子悪魔が部屋に居たならば、決してこのような事態には陥っていない。
小悪魔がそれを全力で阻止するだろうから。
「ねー雪見さん。」
「なんだ。」
「さっきからなんで前のめりなんですか。」
「聞くな喋るな背中だけ流して気が済んだらさっさと風呂から出ろ。」
全く持って空気が読めないのか、あるいはわざとなのか。
少女の暢気な問いかけに、雪見は穴があったら入りたい気分に駆られる。
目に付いた排水溝の中には入る気がしなかったが。
「雪見さんって草食系男子ですよね。」
「知るか。」
「皆、『肉食系男子だろ』、って言うんですけど、そんなことないですよね。雪見さんみたいなへたれはやっぱり草食系男子ですよね。」
皆とは誰のことだ。
人が居ないところでとんでもない話をされているものだ。
そもそもへたれとはなんだ、へたれとは。
俺はへたれでもないし草食系男子なんて可愛いチェリーボーイでも無いぞ!
雪見は心の中で叫ぶ。
それにしても、この少女は一体何が目的なのか。
背中から降ってくる間延びした独り言ともつかない言葉に、だんだん苛立ちが募り始める。
誘っているのか、そうなのか、そうなんだな!
そういうことにした。
「椥。」
「なん――」
シャンプーのポンプから粘性の液体を2プッシュ分手のひらに出していた椥は、さっきまで雪見の白い後頭部が見えていたところに、彼の鋭い相貌を捉えて、一瞬息を詰まらせた。
その機会を逃す手は無い。
目にも留まらぬ速さで椥の両手首を残った片手でつかみ上げ、浴室の床に押し倒す。
裸の雪見とは対照的に、椥はパイル地のハーフパンツに綿のTシャツという、軽装ながらも服を身に着けていた。
だが、決して厚い生地ではないそれらは、排水溝に流れず残った水を吸って、椥の体のラインをうっすらと浮き彫りにさせてゆく。
華奢だ、乱暴すればすぐに壊れてしまうだろうに。
だが、今こうして眼下に組み敷いた椥の体を、容易く解放するつもりなど、今の雪見には無い。
「散々あおったからには、それ相応の覚悟の元にきたんだろうな。」
「えーっと。」
「いいわけは聞かねーぞ。」
右膝を椥の半開きの足の間に割り込ませ、グイ、と繊細な部分に押し付ける。
雪見の意図に気づいてあわてて太ももを閉じようとする椥だったが、到底雪見の力には敵わない。
「背中を流してもらったお駄賃は、ココへのご奉仕で返させてもらおうか。」
「何言ってるんですか、ちょっ…ぁ…!」
そう、これは大人をからかった罰だ。
今まで散々コケにされてきた鬱憤を、今ココで晴らしてやろう。
組み敷かれてうろたえる椥のハーフパンツをおろそうとして―――動かそうとした片手が無いことに気づき、口の中で舌打ちする。
仕方ないから、膝を何度も押し当てて、椥の吐息の変化を探る。
「ゆ、ゆきみ…さっ…」
「どうした、息があがってるぞ。膝で擦られるのが好きなのか。」
「なっ…!」
挑発的な言葉を投げかけると、椥は頬を朱色に染めつつも、目を眇めて雪見をにらみつけた。
けれども、ハーフパンツ越しに擦り続ける雪見の膝がある一点を掠めると、そのきつく眇められた瞳も、一瞬にしてトロンと蕩け、欲情をそそる顔つきに変化する。
その小さな唇から漏れる吐息は、明らかに艶を孕んでいた。
雪見は膝の動きを継続させたまま、今度はTシャツのふくらみに標的を絞る。
うっすらと透けた生地の下には、邪魔なことに、ブラジャーのラインが浮いて見えた。
もしブラジャーを着けていなかったら、二つの突起が自身を主張して、Tシャツを押し上げている様がよく分かっただろう。
「風呂にブラ付けてはいるのは、マナー違反だぜ。」
椥は言い返そうと口を開き、
「っぁあっ!」
出てきたのは、雪見の発言を非難する言葉ではなく、嬌声だった。
雪見がTシャツの上から椥の胸を甘噛みしたせいで発してしまったのだ。
胸からの刺すような刺激が引き金となって、腰の辺りに甘い疼きが忍び寄る。
椥は無意識のうちに腰を上げ、結果として雪見の膝に己の大事なところを擦り付けていた。
その刺激に再び腰が引けるが、雪見がタイミングを見計らって胸を噛むものだから、どうしても腰を浮かせてしまう。
引くに引けない状態とは、まさにこのことだろう。
最初は抵抗のために突っぱねていた椥の両手は、今やすっかり力が抜けきり、雪見が拘束を解いたところで、それすら気づきはしないだろう。
雪見は椥の両腕を戒めていた手を離し、ハーフパンツを脱がそうと手を下に伸ばして、
「雪見さん、何やってるの。」
小悪魔の声を、聞いた。
「ほらね、言ったでしょ。どれだけへたれな雪見さんだって、肉食系男子なんだよ。だからこれからは気をつけてね、椥さん。」
「草食系だって信じてたのに…。」
「そんなこんなで、賭けは俺の勝ちだね。想像通りに動いてくれてありがとう、雪見さん。」
夜の公園。
滑り台の上と下。
小さい影が、半月を見上げて暢気に語らう。
足元の砂場には、首から上だけ出すことを許された哀れな男性の白髪が、月光を反射していた。
けれども己の中心は、湯以上の熱を孕んでいるのではないかと思うほど、激しい高ぶりを見せている。
今は白いタオルで隠れて見えないが、腿にかかった危うい一枚布を取り払えば、堂々と首をもたげた<自身>が現れることだろう。
とてもじゃないが、そのことを背後の少女に知らせることは出来なかった。
知られたいとも思わない。
「熱くないですか?」
主語の抜けた問いかけに、雪見は己の身体の高ぶりを見抜かれたのかと思い、答えに詰まる。
けれどもすぐさま、少女の問いかけが、湯加減のことであると気づき、己の先走った深読みに嘆きたくなった。
「ちょうどいい。」
「それなからよかった。」
片手では不自由だろうから、お背中をお流ししますよ。
突然やってきて冷蔵庫の中を漁り、お茶を飲んで、お手洗いに入り、すっきりした顔で出てきた少女は、呆然としている雪見を前に、突然そのようなことを口走った。
雪見は最初、少女の言葉を理解するまでに2分を要したが、テキパキと湯浴みの準備を始めた少女を静止する理性も働かず、気づけばこのような展開になっていた。
今の同居人にすら背中を流させたことは無いというのに。
しばらく姿を見せなかった少女は、一体どこで情報を手に入れたのか、あるいは偶然なのか、こしゃまくれた生意気な居候が居ない時をうまいこと選んでやってきたものだ。
あの子悪魔が部屋に居たならば、決してこのような事態には陥っていない。
小悪魔がそれを全力で阻止するだろうから。
「ねー雪見さん。」
「なんだ。」
「さっきからなんで前のめりなんですか。」
「聞くな喋るな背中だけ流して気が済んだらさっさと風呂から出ろ。」
全く持って空気が読めないのか、あるいはわざとなのか。
少女の暢気な問いかけに、雪見は穴があったら入りたい気分に駆られる。
目に付いた排水溝の中には入る気がしなかったが。
「雪見さんって草食系男子ですよね。」
「知るか。」
「皆、『肉食系男子だろ』、って言うんですけど、そんなことないですよね。雪見さんみたいなへたれはやっぱり草食系男子ですよね。」
皆とは誰のことだ。
人が居ないところでとんでもない話をされているものだ。
そもそもへたれとはなんだ、へたれとは。
俺はへたれでもないし草食系男子なんて可愛いチェリーボーイでも無いぞ!
雪見は心の中で叫ぶ。
それにしても、この少女は一体何が目的なのか。
背中から降ってくる間延びした独り言ともつかない言葉に、だんだん苛立ちが募り始める。
誘っているのか、そうなのか、そうなんだな!
そういうことにした。
「椥。」
「なん――」
シャンプーのポンプから粘性の液体を2プッシュ分手のひらに出していた椥は、さっきまで雪見の白い後頭部が見えていたところに、彼の鋭い相貌を捉えて、一瞬息を詰まらせた。
その機会を逃す手は無い。
目にも留まらぬ速さで椥の両手首を残った片手でつかみ上げ、浴室の床に押し倒す。
裸の雪見とは対照的に、椥はパイル地のハーフパンツに綿のTシャツという、軽装ながらも服を身に着けていた。
だが、決して厚い生地ではないそれらは、排水溝に流れず残った水を吸って、椥の体のラインをうっすらと浮き彫りにさせてゆく。
華奢だ、乱暴すればすぐに壊れてしまうだろうに。
だが、今こうして眼下に組み敷いた椥の体を、容易く解放するつもりなど、今の雪見には無い。
「散々あおったからには、それ相応の覚悟の元にきたんだろうな。」
「えーっと。」
「いいわけは聞かねーぞ。」
右膝を椥の半開きの足の間に割り込ませ、グイ、と繊細な部分に押し付ける。
雪見の意図に気づいてあわてて太ももを閉じようとする椥だったが、到底雪見の力には敵わない。
「背中を流してもらったお駄賃は、ココへのご奉仕で返させてもらおうか。」
「何言ってるんですか、ちょっ…ぁ…!」
そう、これは大人をからかった罰だ。
今まで散々コケにされてきた鬱憤を、今ココで晴らしてやろう。
組み敷かれてうろたえる椥のハーフパンツをおろそうとして―――動かそうとした片手が無いことに気づき、口の中で舌打ちする。
仕方ないから、膝を何度も押し当てて、椥の吐息の変化を探る。
「ゆ、ゆきみ…さっ…」
「どうした、息があがってるぞ。膝で擦られるのが好きなのか。」
「なっ…!」
挑発的な言葉を投げかけると、椥は頬を朱色に染めつつも、目を眇めて雪見をにらみつけた。
けれども、ハーフパンツ越しに擦り続ける雪見の膝がある一点を掠めると、そのきつく眇められた瞳も、一瞬にしてトロンと蕩け、欲情をそそる顔つきに変化する。
その小さな唇から漏れる吐息は、明らかに艶を孕んでいた。
雪見は膝の動きを継続させたまま、今度はTシャツのふくらみに標的を絞る。
うっすらと透けた生地の下には、邪魔なことに、ブラジャーのラインが浮いて見えた。
もしブラジャーを着けていなかったら、二つの突起が自身を主張して、Tシャツを押し上げている様がよく分かっただろう。
「風呂にブラ付けてはいるのは、マナー違反だぜ。」
椥は言い返そうと口を開き、
「っぁあっ!」
出てきたのは、雪見の発言を非難する言葉ではなく、嬌声だった。
雪見がTシャツの上から椥の胸を甘噛みしたせいで発してしまったのだ。
胸からの刺すような刺激が引き金となって、腰の辺りに甘い疼きが忍び寄る。
椥は無意識のうちに腰を上げ、結果として雪見の膝に己の大事なところを擦り付けていた。
その刺激に再び腰が引けるが、雪見がタイミングを見計らって胸を噛むものだから、どうしても腰を浮かせてしまう。
引くに引けない状態とは、まさにこのことだろう。
最初は抵抗のために突っぱねていた椥の両手は、今やすっかり力が抜けきり、雪見が拘束を解いたところで、それすら気づきはしないだろう。
雪見は椥の両腕を戒めていた手を離し、ハーフパンツを脱がそうと手を下に伸ばして、
「雪見さん、何やってるの。」
小悪魔の声を、聞いた。
「ほらね、言ったでしょ。どれだけへたれな雪見さんだって、肉食系男子なんだよ。だからこれからは気をつけてね、椥さん。」
「草食系だって信じてたのに…。」
「そんなこんなで、賭けは俺の勝ちだね。想像通りに動いてくれてありがとう、雪見さん。」
夜の公園。
滑り台の上と下。
小さい影が、半月を見上げて暢気に語らう。
足元の砂場には、首から上だけ出すことを許された哀れな男性の白髪が、月光を反射していた。
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