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欠片むすび

ポケスペのSSや日記などを書いていこうと思います。

2024'05.18.Sat
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2007'08.27.Mon
 夏の太陽を覆い隠すように現れた灰色の厚い雲は、予想以上に長い長い雨を運んできた。
 しとしとと降り注ぐ雨に、珠紀は小さく息を吐く。



「今日は出かけるのやめましょうか。」



 背後に控えた拓磨と祐一が頷く。
 一人だけ「えーっ!?」と嫌そうに非難の声を上げた真弘だったが、両サイドを囲む背の高い男二人になんともいえない表情で見つめられ、しぶしぶ頷いた。
 天気予報でも予期できなかった突然の雨。
 真夏にしては珍しい長雨は、本日街まで服を買いに行くつもりだった四人の予定を完全に狂わせた。
 ひとまず珠紀の家に集合したまでは良かったのだが、予定がつぶれては集まった意味が無い。
 かといって雨振る中をいちいち帰るのは面倒なので、部屋の一角でごろごろしている。
 祐一は真っ先に壁に背をもたれて眠り、拓磨は肌身離さず持っているクロスワードの本を広げる。
 何も持ってきていなかった真弘はあまりにもつまらなくて、珠紀の髪や服を引っ張ってみたり。
 けれどもすぐに飽きて、我慢の限界だといったようにガバリと立ち上がった。



「暇だっ。暇すぎるっ!!!なんか面白いこと無いのかよ!」



 部屋の中央で精一杯わめいたところで、この古い珠紀の家にはたいした遊び道具が無い。
 真弘が好きそうなものなんて、余計に無い。
 このままほうっておくと部屋の中で暴れられかねないので何か無いだろうかと必死に思案する珠紀の肩を、いつの間にか壁から離れた祐一がポンと叩いた。



「ババ抜きをしよう。」



 胸ポケットから取り出される、トランプの束。
 ババという言葉に一瞬真弘がニヤリと笑って珠紀を見たが、無視する。
 いちいちこんなことに反応する年ではない。というか、祐一がトランプを持っていることに少し驚きだ。



「いいっすね、ババ抜き。せっかくだから何か賭けましょうよ。」
「拓磨にしちゃあいいこと言うじゃねえか。よし、なんにする?」



 面白いものを見つけた子どものように目を輝かせる真弘。拓磨は一瞬考え込むように目を閉じて、開いた時には祐一を見据えていた。
 祐一はその金色の瞳を一瞬細くして、小さく頷く。



「1番早くあがったものが、この場にいる一人を今日一日好きなように扱える。」
「……。」



 拓磨と祐一、そして真弘の視線がいっせいに珠紀に集まる。
 まるで飢えた獣のような視線を三方から浴びせられ、珠紀は思わず縮こまった。
 三人の中で、景品は珠紀であると、問答無用で一致しているらしい。
 先に彼らに上がられてしまったら、間違いなくいやな展開になりそうだ。
 かといって、今ココで賭けの内容を拒否することは出来ないだろう。
 誰が勝つかは運次第。条件は誰も同じ。要するに、珠紀が勝てば問題ないのだ。



「じゃ、早速しようぜ。」



 畳の上に、円になるように座る四人。 珠紀の正面に真弘がいて、両サイドには祐一と拓磨がいる。
 祐一は手にしたトランプを拓磨に渡した。自分で配るのが面倒くさいからだ。
 拓磨はハイハイ俺がやりますよ、とすばやくトランプを配る。
 珠紀の手元に回ってきたカードはダブりを捨てると最終的に5枚に減った。それに比べて、正面の真弘の手札はやたら多い。拓磨と祐一は6枚。どっちもどっちといった感じだ。
 じゃんけんをした結果祐一が勝ったので、祐一が真弘の手札を抜く。初っ端から祐一は手札を捨てた。
 真弘が拓磨の手札を引いて、捨てて、拓磨が珠紀から一枚抜いて、また捨てる。
 祐一から手札を抜き取った珠紀は、プラスチック製の白地に書かれたピエロに思わず顔をしかめた。



「おっ、珠紀のところにババが行ったか。」



 正面の真弘は、多い手札で自分を仰ぎながらにやりと笑った。
 図星だ。顔に出してしまったことを悔いる。見事にババをよこした祐一を仰ぎ見れば、金色の瞳は涼しげに見返してくるだけで、ちっとも感情が読み取れない。
 一番厄介な相手だ。
 同じ工程を何度か繰り返して、7回目には、珠紀の手札は2枚になっていた。そして祐一は1枚。
 珠紀はこの一枚を引かなければならないということで、必然的にゲームの勝者は祐一になる。
 最後の一枚を珠紀が引いて、祐一はあがった。その後はとんとん拍子。結局最後は珠紀と真弘の一騎打ちで、なんとか珠紀が勝つことが出来た。
 けれども賭けに負けたのは事実。



「…そうだな…。」



 勝った祐一が、思案するように金色の瞳を眇める。
 その瞳に射すくめられ、珠紀は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
 祐一は、きっと変な願いをしてこないと思う。というか、そう思いたい。
 白い指先がツツ、と珠紀の頬をなでる。
 真弘がコレでもかというくらい目を半眼にしてにらみつけるけど、負けたことは事実。
 賭けに乗ってしまった時点で文句を言える立場ではないので、グッと我慢だ。
 拓磨はそんな真弘を傍らで見下ろして苦笑するばかり。少しだけその瞳には残念な色が浮かんでいるが、生憎のところ、それに気づくものは一人としていない。



「珠紀。」
「は、はいっ。」



 静かな、感情の読み取れない声に名を呼ばれ、思わずぴんと背筋が伸びる。
 景品に選ばれたことは確実だ。
 祐一は珠紀の体をやんわりと自分に引き寄せ、しゃがんだ。
 つられてしゃがむと、膝の上に白い髪が散らばる。少しの重みとぬくもりが預けられて、むき出しの膝が少しだけくすぐったい。



「て、てめぇっ!!祐一っ!!!何してんだっ!!!」
「膝枕だが。」
「『膝枕だが。』じゃねえっ!!!誰の許可を得てやってる?!」
「全員の同意の下だ。なぁ拓磨?」
「…そうっすね、そういう”賭け”でしたから。」



 そう呟く拓磨は、やっぱり何処か名残惜しそうに珠紀の膝を見ている。
 真弘は苛立ちのあまり舌打ちして、けれども自分も率先してその賭けに乗ってしまったものだから、これ以上わめくわけにも行かない。
 誰にぶつけることも出来ない怒りをもてあまし、そのまま部屋を飛び出していく。
 拓磨は小さくため息をついて、その後を追いかけた。
 広い背中が語る。「ごゆっくり。」、と。
 襖が閉じて、広い部屋は無音の空気に包まれた。



「…その、祐一先輩ってババ抜き強いんですね。」



 無言が耐え切れなくて、適当な話題を持ち出してみる。
 祐一は閉じかけていた金色の瞳を一瞬だけめんどくさそうに開いて、再び閉じた。



「別に、強いわけじゃない。見えただけだ。」
「…へ?」
「今度から背の高い相手とババ抜きをする場合は、絵柄を出来るだけ下に傾けたほうがいい。じゃないと丸見えだ。」



 丸見え。つまり祐一は珠紀と真弘の手札が分かっていたから、勝てたというのか。
 そういえば、拓磨も最後の最後までババを珠紀から抜くことは無かった。
 拓磨にも珠紀の手札が見えていたのかもしれない。



「真弘には教えるな。言うと怒るから。」
「…そう、ですね。」



 身長が小さいせいで手元が丸見えだと言っているようなものだから、身長に敏感な真弘が聞けば絶対怒る。
 今度からトランプをするときは絶対絵柄のほうを自分に深く傾けてしようと心に決める珠紀に、祐一は小さく呟いた。



「たまには許してもらいたいものだ。いつも真弘が独占しているのは、面白くない。」



 守護五家は玉依姫のものであり、同時に玉依姫は守護五家全員の姫であらなければならないのだから。

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