2008'12.12.Fri
「いや、だからよ、これはちょっと限度にも程ってものがあるだろ・・・。」
薄暗い室内。
その中でわずかに発光するのは、少し型落ちしたデスクトップパソコン。
鴉取真弘は画面に表示されたとあるサイトを眺め、一人ごちた。
かれこれ年単位になるのではないかと思われるほど、放置された小説サイトを見ている途中のことである。
「ったく、管理人は何してんだよ。早く連載の続きかけよ、気なるだろーが。」
「ん…。」
背後の寝台で寝ているはずの珠紀が、真弘の少し大きすぎる独り言に目を覚まし、もぞりと布団の中で寝返りを打つ。
真弘は一瞬ギクっと身を震わせて口を押さえるが、幸いにも珠紀はおきていないようだった。
「危ねー、これ見られたらなんて言われるか…。」
開かれたページにつらつらと書かれた文章。
そこには何を隠そう真弘と珠紀が登場している。
真弘が先ほどから文句をたれながら閲覧しているのは、真弘と珠紀のカップリングを扱っている小説サイトだった。
「…仕方ねーな、昔のやつ読み直すか。」
小説選択ページを開いて一番上に張られているリンクから本文ページに飛ぶ。
画面いっぱいに広がる文字列に、見つけた当初はくらりとめまいしたものだ。
けれども読んでみると、これがなかなかアツい。
物語の中の珠紀はとっても可愛くて一生懸命でおしとやかで、真弘のことをいつも考えているのだから、これが喜ばすにいられようか。
しかし現実は…。
「ぐー…。」
「………。」
真弘は昏々と眠りにつく現実の珠紀を見て、小さくため息をついた。
付き合い始めてもう2年と少し経つだろうか。
二人は1年前から小さなアパートを借りて同棲をはじめていた。
最初の頃は毎晩のように虫すらも寄り付かぬほどおあついカップルであったが、最近の珠紀は世間で流行の<ツンデレ>というものを通り越し、熟年夫婦のようなそっない対応ばかりだ。
そんな寂しい中、こんなラブラブしちゃっている自分たちの小説を見つけてしまって、のめりこまないわけが無い。
案の定真弘はサイト内の小説を完読し、次に更新されるのは今か今かと待ち続けていた。
しかし悲しいことに、小説は一向に更新される気配が無い。
「管理人死んだのか?生き返れよ。殺すぞ。」
矛盾した独り言も、次第に闇夜の静寂にまぎれて消えていく。
集中して物語にのめりこんでいた真弘の呼吸は、いつの間にか穏やかな寝息に変わっていた。
翌朝。
寝相の悪さですっかり乱れてしまった布団から、珠紀がのそりと起き上がる。
いつも隣にいるはずの真弘の姿が見えなくてぎょっとするが、椅子に腰掛けパソコンをつけっぱなしで寝ている姿を捉え、あきれた。
「全くもう、寝るときは布団で寝ないと疲れ取れないでしょうに。」
起こそうと思って、うつぶせになった真弘の肩に手を乗せようとする。
けれどもパソコンの画面に表示された文字の羅列に、思わずその手の動きを止めた。
意識せずとも、体の奥から熱いような冷たいような汗がにじんでくる。
そうして固まっているうちに、気配に気づいた真弘が起きて机から上体を起こした。
珠紀は思わず後ろに下がり、窓にかかったカーテンをシャッと開けた。
「ふぁあ~、くっそ、体いてぇ。」
「お、おはようございます。」
「んぁ?あー、もう朝か…。」
窓から差し込む白い日差しに眠気が一瞬にして吹き飛ぶ。
真弘は大きく伸びをして、自分が小説を読んでいるうちに寝てしまったことに気づいた。画面には読みかけの小説が表示されていることにも。
「っ!」
真弘はばっと振り向いて珠紀を見る。
珠紀は窓の外を眺めたままだ。
大丈夫、気づかれていない。少なくとも真弘はそう思う。
即座にマウスでページを閉じ、ついでにパソコンの電源も落としにかかる。
クリックの音、そしてパソコン終了音。
珠紀は背中越しにパソコンの電源が切れたことを確認してから、真弘を見る。完璧な笑顔を貼り付けて。
「今度からちゃんと布団でねてくださいね。」
「あ、ああ。悪かった…。」
今日の珠紀はやけに笑顔だ。真弘は不審に思いつつも、珠紀の機嫌がよさそうなことに嬉しくなる。
こうやって笑顔を向けられるのは久しぶりだ。
「よし、今日も行ってくるか。」
どかどかと、小さい体でわざとらしく大きな足音をさせながら、真弘が部屋を出て行く。
真弘を笑顔で見送った珠紀は、ひとつの秘密に内心冷や汗をかいてた。
あのサイトを、まさか自分が作ったとは口が裂けても言えない。
薄暗い室内。
その中でわずかに発光するのは、少し型落ちしたデスクトップパソコン。
鴉取真弘は画面に表示されたとあるサイトを眺め、一人ごちた。
かれこれ年単位になるのではないかと思われるほど、放置された小説サイトを見ている途中のことである。
「ったく、管理人は何してんだよ。早く連載の続きかけよ、気なるだろーが。」
「ん…。」
背後の寝台で寝ているはずの珠紀が、真弘の少し大きすぎる独り言に目を覚まし、もぞりと布団の中で寝返りを打つ。
真弘は一瞬ギクっと身を震わせて口を押さえるが、幸いにも珠紀はおきていないようだった。
「危ねー、これ見られたらなんて言われるか…。」
開かれたページにつらつらと書かれた文章。
そこには何を隠そう真弘と珠紀が登場している。
真弘が先ほどから文句をたれながら閲覧しているのは、真弘と珠紀のカップリングを扱っている小説サイトだった。
「…仕方ねーな、昔のやつ読み直すか。」
小説選択ページを開いて一番上に張られているリンクから本文ページに飛ぶ。
画面いっぱいに広がる文字列に、見つけた当初はくらりとめまいしたものだ。
けれども読んでみると、これがなかなかアツい。
物語の中の珠紀はとっても可愛くて一生懸命でおしとやかで、真弘のことをいつも考えているのだから、これが喜ばすにいられようか。
しかし現実は…。
「ぐー…。」
「………。」
真弘は昏々と眠りにつく現実の珠紀を見て、小さくため息をついた。
付き合い始めてもう2年と少し経つだろうか。
二人は1年前から小さなアパートを借りて同棲をはじめていた。
最初の頃は毎晩のように虫すらも寄り付かぬほどおあついカップルであったが、最近の珠紀は世間で流行の<ツンデレ>というものを通り越し、熟年夫婦のようなそっない対応ばかりだ。
そんな寂しい中、こんなラブラブしちゃっている自分たちの小説を見つけてしまって、のめりこまないわけが無い。
案の定真弘はサイト内の小説を完読し、次に更新されるのは今か今かと待ち続けていた。
しかし悲しいことに、小説は一向に更新される気配が無い。
「管理人死んだのか?生き返れよ。殺すぞ。」
矛盾した独り言も、次第に闇夜の静寂にまぎれて消えていく。
集中して物語にのめりこんでいた真弘の呼吸は、いつの間にか穏やかな寝息に変わっていた。
翌朝。
寝相の悪さですっかり乱れてしまった布団から、珠紀がのそりと起き上がる。
いつも隣にいるはずの真弘の姿が見えなくてぎょっとするが、椅子に腰掛けパソコンをつけっぱなしで寝ている姿を捉え、あきれた。
「全くもう、寝るときは布団で寝ないと疲れ取れないでしょうに。」
起こそうと思って、うつぶせになった真弘の肩に手を乗せようとする。
けれどもパソコンの画面に表示された文字の羅列に、思わずその手の動きを止めた。
意識せずとも、体の奥から熱いような冷たいような汗がにじんでくる。
そうして固まっているうちに、気配に気づいた真弘が起きて机から上体を起こした。
珠紀は思わず後ろに下がり、窓にかかったカーテンをシャッと開けた。
「ふぁあ~、くっそ、体いてぇ。」
「お、おはようございます。」
「んぁ?あー、もう朝か…。」
窓から差し込む白い日差しに眠気が一瞬にして吹き飛ぶ。
真弘は大きく伸びをして、自分が小説を読んでいるうちに寝てしまったことに気づいた。画面には読みかけの小説が表示されていることにも。
「っ!」
真弘はばっと振り向いて珠紀を見る。
珠紀は窓の外を眺めたままだ。
大丈夫、気づかれていない。少なくとも真弘はそう思う。
即座にマウスでページを閉じ、ついでにパソコンの電源も落としにかかる。
クリックの音、そしてパソコン終了音。
珠紀は背中越しにパソコンの電源が切れたことを確認してから、真弘を見る。完璧な笑顔を貼り付けて。
「今度からちゃんと布団でねてくださいね。」
「あ、ああ。悪かった…。」
今日の珠紀はやけに笑顔だ。真弘は不審に思いつつも、珠紀の機嫌がよさそうなことに嬉しくなる。
こうやって笑顔を向けられるのは久しぶりだ。
「よし、今日も行ってくるか。」
どかどかと、小さい体でわざとらしく大きな足音をさせながら、真弘が部屋を出て行く。
真弘を笑顔で見送った珠紀は、ひとつの秘密に内心冷や汗をかいてた。
あのサイトを、まさか自分が作ったとは口が裂けても言えない。
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