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欠片むすび

ポケスペのSSや日記などを書いていこうと思います。

2024'05.18.Sat
×

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2009'12.27.Sun
 携帯のディスプレイに「12月27」の日付がシャープな黒い線で表示されている。間違いなくそれは今日の日付であり、今この瞬間の日にちをあらわしたものだった。けれどもPC画面に映るピンク色のブログの日付は、12月18日でその筆跡を止めている。



「なんで、更新が止まってるんだ…。」



 レッドは薄暗い部屋の中、わななく唇で放心したように呟いた。

 今画面に表示させているのは、一体何処の誰が書いたものか知らないが、ポケットモンスターオンラインでレッドが操作しているキャラクター「red」と、自由に名前を変換できる架空の「ヒロイン」の夢小説をつらつらと書き連ねているブログで、レッドは最初こそ「何勝手にオレを使って意味の分からない事やってるんだ」とぼやいていたものの、そのヒロインの名に己の好きな子の名を入れることによって、いつの間にか逆夢小説として楽しむようになっていた。
 割と更新頻度の高いサイトだったため、来る12月24日ないし25日、世間でいわゆるクリスマスと騒がれる日の更新を心待ちにしていたのだが、このブログの管理人は見事にレッドの期待を裏切って24日と25日は更新せず、それどころか数日たった今ですらクリスマスネタをアップしようとする気配が無い。見事なまでの放置プレイをかまされたイライラで、無意識に噛んでいた左親指の爪はすっかりゲジゲジになっていた。終いにはとうとう血まで出てきたものだから、レッドは棚の奥底に仕舞ってあるはずの絆創膏を探すために手を突っ込み、かき混ぜるように探る。

 レッドが夢小説、特にクリスマスネタに期待を寄せるのには、ちょっとした事情がある。というのも、ナギの勤め先の雑貨屋はクリスマスの直前から終わり直後のセールまで猛烈に忙しいため、クリスマス当日どころかここ1週間ろくに会っていないなかった。24日の晩はレッドの母親が買ってきたクリスマスケーキを一緒に食べはしたが、一緒に居られた時間はほんのわずか。ケーキを食べた後、翌日に備えて帰ろうとするナギを引き止めたくても引き止められない悔しさに涙したのは3日前のことだ。本当は用意していたプレゼントの事も言い出せないまま、寂しいクリスマスを過ごした。ちなみにナギからもプレゼントは貰っていない。
 三次元で埋められない寂しさを二次元に求めるのは、言うなれば自然の摂理。だからこそレッドはとろけるように甘ぁ~いクリスマス夢を心待ちにしていたのだが、盛大に期待を裏切られたショックや怒りはそう簡単に無くなりはしない。

 怒りに身を任せて棚を漁るが、なかなか目当ての絆創膏は見つからない。必要でないときはぽろっと出てくるというのに、どうして肝心なときに見つからないのか。
 イライラしつつ棚漁りを続けていると、途端に部屋のドアが押し破られるように開いた。絆創膏探しに集中していたレッドは階段を上ってくる足音に全く気付かず、ぎょっと振り向き、その視界にお隣さんの姿を捉えるなり半眼になる。



「ノックくらいしろよ。オレとナギが愛の営み中だったらどうするんだ。」
「お前その顔でさらっとシモネタ言うなよ。それにナギならさっき雑貨屋で見たし。」
「あー、まだ仕事中か。ってか何でお前が雑貨屋に?まさか!オレのナギに興味が」
「いつからお前のものになったんだよ。…シロがクリスマス後のセールを狙ってアクセ買いあさりたいって言ってたからちょっと見てきただけだ。そしたらナギがレジ打ってた。」
「ふーん。シロと行ったのか?」
「いや…シロは明日姉さんと行くってよ。」
「はっはっは、乙!」



 口では笑っているものの、相変わらずジト目で睨んでくるレッドに、グリーンは来るタイミングを間違えたと思った。不機嫌なのは一目瞭然だ。けれども来てしまったからには用件を述べなければなるまい。手にした紙切れを握り締めて、見ろといわんばかりにレッドの胸元にそれを押し付ける。レッドはそれを受け取って用紙に散りばめられた細かい文字に視線を走らせると、途端に凍りついたような表情を浮かべ、手元を震わせはじめる。



「グ、グリーン…、これ。」
「凄いだろ!「green」、つまりオレだな。オレとヒロイン…シロのクリスマス夢だ!最近のポケオン(ポケットモンスターオンラインの略)夢小説は、このグリーン様が一番人気なんだぜ!」
「なんだって!?」
「確かにお前は<原点にして頂点>なんていうご大層な二つ名を持って有名だが、いかんせん人との接点を持たなすぎなんだよ。オレはINしたらその都度他のプレイヤーに優しく接してきたからな、お陰で夢書き達の間でも大人気だぜ。」
「くっ…。」



 まさかお隣に人気を掻っ攫われていたとは。っていうかお前も夢小説読んでるのかよ、医大の勉強どうした、と突っ込みたい。レッドは手の中のgreen×ヒロインの夢小説を粉々に破いた後、グリーンの家で飼っているゴールデンレトリバーのイーブイにオシッコをぶっ掛けさせてやりたいた気持ちに駆られるが、そんなことすれば目の前のグリーンがニヤニヤするだけであることは分かっている。そうさせることが相手の狙いだ。レッドはふつふつと湧き上がる怒りを限界まで押し殺し、出来うる限りの作り笑いで小説がタイピングされた印刷用紙を付き返した。



「ナギを迎えに行って来る。」
「そうか。外寒いぞ。」



 己より少し背の低い黒髪が脇をすり抜けて部屋を出て行くさまを、グリーンはちらりと流し見て、ん?と首を傾げる。今のさり気ない一連の流れが、とてつもない違和感を孕んでいる気がする。壁にかかった時計を見る。時刻は20時前だ。



「おいレッド!まだ九時なってないぞ!」



 レッドが21時前に家から出るなんて、グリーンが知る限りでは初めてのことだった。いくら冬のせいで夜が来るのが早く外が暗いといっても、人通りは決して少ないわけではない。人とすれ違うことを恐れるレッドがこうして人と出会う確率がある時に自らの意思で外に出るなど、考えられないことだ。グリーンは慌てて後を追おうと二階から転がるように下りて玄関から駆け出しかけ、ふとその足を止める。



「これは…止めないほうが正解なのか…?」



 どんどん小さくなっていく引きこもりの幼馴染みの背中を見て、グリーンは戸惑いに立ち尽くす。木枯らしが、迷いをあざ笑うかのように手の中の印刷紙をガサガサと揺らしては吹き抜けて行った。









 心頭滅却すれば火もまた涼しという言葉がある。無念無想の境地にあれば、どんな苦痛も苦痛と感じないという意味で、1582年甲斐(かい)国の恵林寺が織田信長に焼き打ちされた際、住僧快川(かいせん)がこの偈(げ)を発して焼死したという話が伝えられているが、今のレッドはこの逆だった。管理人やらグリーンに対する怒りはすっかり頂点に達し、頭だけでなく、身体の全てが熱くグツグツと煮えたぎっている。黒の半そでTシャツにジーパンという真夏の装いのまま、木枯らし吹き荒れる薄暗い寒空の下に繰り出しても、寒さなど全く感じられない。絆創膏を巻けずに終った左親指の爪の痛みだって感じない。血も固まってしまっている。人に会う恐れすらも頭から吹き飛んだレッドが向かうのは、<真白町>唯一の雑貨屋だ。

 道中数人の若い男女や老人とすれ違い視線を集めたが、怒りで前が見えていないレッドは完全にそれらの視線をスルーした。雑貨屋まではそう遠くなく、すぐさま店にたどり着く。携帯に表示された時刻は20時2分、ついさっき営業が終了したところだ。案の定店のドアにはcroseの看板がかかっていて、擦りガラスの向こうで人が動いている様子が見て取れる。ラストまで勤務している店員が閉店作業をしているのだろう。そのうち「お疲れさまです」という聞きなれた声が聞こえ、croseの看板が揺らぎドアが開いた。強盗よけの淡いオレンジ光ライトがついたままになった店内から、見慣れた少女が出てくる。少女はドア前に突っ立ったレッドに一瞬身をひるませるが、その顔を見てきょとんと眼を見開き、次の瞬間驚きに叫ぼうと口を開いた。すかさずレッドはその口を乱暴だとは思いつつ手で押さえ込む。



「むっむ!?!?」
「しー、大声出したら中の人が驚いて出てくるだろ。」
「むぅむむ。」



 レッドはナギがコクコクと頷いたことを確認して手の口枷を解く。ナギはぷはっと息を吐いて吸い込み、なんと言ったらよいのか、と口を金魚のようにパクパクさせる。そんな仕草も相変わらず可愛いなぁと思いつつ、頭を撫でてさり気なく腰なんか引き寄せてみて、途端に外気の寒さを認識した。半袖Tシャツで真冬に飛び出してきたのだから当然だ。腕の中のナギは、さっきまで暖かい店内にいたせいか着ているものまで暖かい。無意識の内に熱を貰うかのように、その身をぐっと引き寄せてピトリと胸と胸を合わせた。いつもなら恥ずかしそうに身を縮ませるナギも、どうやら今日は違うらしい。興奮のせいか外気に触れたせいか分からないが、鼻先と頬をほんのり赤く染め、白い息を吐き出しながらレッドに詰め寄る。



「こんな時間にどうしたの!?」



 ナギもグリーンと同じく、レッドが21時より前に家の外に出ている現場を目撃するのは小学校時に引きこもりが始まって以来初めてのことだった。驚かざるおえない出来事に、潜めた声もやや興奮気味でトーンが高い。



「ナギに会いたくて仕方なかった。」



 白い息と共に吐き出されたレッドの言葉に、ナギは「へっ?」と声をあげる。言葉の意味を理解するにつれて、だんだんと顔全体が赤く染まっていくのが見ていて面白い。レッドに見つめられ、ナギはその変化を隠すように下を向くが、途端に気温の変化による鼻水が流れ落ちそうになって、慌てて顔をあげた。いつになく近い体と瞳の距離に落ち着かないのか、キョロキョロと周囲を見回しては時折レッドの表情を窺い見る。けれどもレッドが半袖なことに気付くなり、驚愕に眼を見開いてむき出しの二の腕を掴み取った。



「なんで長袖着てないの!寒くないの!?」
「ナギが側にいてくれたら暖かいよ。」
「そういう問題じゃなくって…!」



 あー、もうっ。
 白い吐息と一緒に少しだけ怒った声が口から漏れる。ナギは普段荷物を入れているショルダーバッグとは別の大き目の紙袋からラッピングされた包みを取り出して、レッドの胸の辺りに押し付けた。



「コレ使って。」
「なにこれ。」



 ナギは何も言わず、そっぽを向いてレッドの腕からスルリと抜ける。そしてレッドを置き去りにしたまま荒々しく歩き始めた。別にそこまで腹を立てているわけではなく、近い距離に動揺してしまったことを悟られないためだった。
 1人取り残されたレッドは、渡された包み(緑色の包装用紙にワインレッドのリボンとヒイラギの葉、メッセージカードが添えられている)を慎重に開く。中にはふんわりとした毛糸であまれたマフラーが入っていた。どことなく網目が揃っていない。店頭に並んでいる商品らしからぬ不ぞろいさに、もしや、と淡い期待が脳裏をよぎる。添えられたメッセージカードには女性らしいピンク色のペンで一文。



―遅くなった上にへたくそでごめんね、メリークリスマス。―



 気付けばレッドは走っていた。少し先の小さな背中にすぐさま追いついて、その腕を取る。もちろんマフラーはしっかりと抱えたままで。驚いたように振り向くナギを引き寄せて、レッドは幸せをかみ締めるようにその耳元で呟いた。



「メリークリスマス。」



 少し遅めのクリスマスを迎えた二人を祝福するかのように、木枯らしにまぎれた白い妖精達が降り始める。一段と寒さを増しはじめた夜の闇に紛れた1対の緑の瞳が、その様子を静かに見守っていた。







****************

クリスマスネタ放置してごめんなさいレッドさんごめんなさい。
超絶スランプです。先週から内定先の研修が始まってちょっと忙しいので、更新が遅くなると思います…。

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2009'12.18.Fri
 その日はとても寒かった。
 AM7:00と右上に表示されたテレビ画面の中で、お天気お姉さんが年末一番の冷え込みであることを大げさに語っている。言われてみれば確かにいつもより寒い。レッドは手元に置いたエアコンのリモコンで室内の温度を30度に設定する。さっきよりも暖かい空気を吐き出し始めたエアコンを見て隣に座るナギはぎょっとしたようだった。ナギは滅多に暖房を使わないから、こうして平気でガンガン温度を上げることが信じられないのだろう。うちに来てるときくらいは気兼ねせずにゆっくり温もっていってね、と頭の中にニヤニヤ動画(リアルタイムに視聴者がコメントを書き込める機能がついた集合動画サイト)で人気のとあるキャラクターの顔が思い浮かぶ。
 年末一番の冷え込みのせいか、家を車で出る人が相次いで交通機関は渋滞の極みらしい。雪は降っていないが路面が凍結しているおそれがあるため、皆一様に運転が慎重で、余計長蛇の列を作る羽目になっている、とお天気お姉さんに代わって気象予報士のおじさんが付け加えていた。



「あーあ、朝から皆さんご苦労なことだなぁ。」



 ―――まぁ自分には関係ないんだけど。
 レッドは腹のうちでそう思いながら茶碗に盛られた白米を左の手に持った箸で口に運んだ。今は両利きだがもともと左利きだから、歯を磨いたりご飯を食べたりといった日常生活のちょっとした動作は左手で行う癖が抜けていない。



「うちは田舎だからまだいいほうだよね。」
「ってかナギ車持ってないから関係なくない?」
「それはそうだけど、ほら、レッドのおばちゃんは車通勤じゃん。今頃ニビの手前辺りで渋滞に巻き込まれてるんじゃないかな。」
「ああ、そうかもな。」



 隣の椅子に腰掛けたナギは目の下にクマを作った顔でレッドの母親を心配するような発言をする。オレはどちらかというと寝不足のナギが心配だよ、とレッドは口に出さず心の中で呟いた。

 有給の調整で急な休みが貰えたと喜びに浮き足だつナギがDS片手に家に転がり込んできたのは昨晩のこと。いつもならよほど遅くても5時ごろにはDSの電源をつけっぱなしで寝るナギが、久々に一睡もすることなく朝のこの時間まで起きている。レッドにしてみればこの時間帯まで起きているのは当たり前のことだが、普段寝ているはずの時間に起きていたナギの体は大きな負担を抱えているはずだ。レッドはもう一度テレビ画面右上の時計を見た。AM7:03。まださっきから3分しか経ってない。が、一刻もナギを床に就かせなければならない。



「ナギ、とりあえず朝ごはん食べたら寝よう。オレ眠い。」
「ああ、私このまま今日の夜まで起きてるから。」



 ガツン、と頭を金槌で殴打されたような衝撃がレッドの全身を駆け巡る。今のは聞き違いだろうかと箸を箸置きに置いて、汚いとは思いつつナギ側の耳をかっぽじってみる。ふっと息を吹きかけて、あまり無い粉をあさっての方角に吹き飛ばした後、



「ナギ、今寝ないって言った?」
「うん、寝ない。起きてる。レッド寝てていいよ。」



 今度は金槌どころかメタグロスのコメットパンチをノーガードで食らったような衝撃が全身を支配した。いつもは聞き分けのいいナギが、どうして頑なに寝ようとしないのか。
 思い当たるのは、今レッドの部屋のベッドの上に電源を点けたまま放置してある充電器を繋いだままのDSに入っているソフト。言うまでもなくポケットモンスターオンラインDS版のカートリッジが入っているわけだが、問題はソフト自体ではなく、その中で行われている期間限定イベントだ。ポケットモンスターオンラインでは今、年末クリスマス企画と称して25日まで獲得経験値及び獲得金額2倍イベントをやっている。昨晩はイベント開始日だった。そのためかは知らないが、昨晩もレッドのポケモンたちに手も足も出せなかったナギは、敗戦後黙々と草原や洞窟に入り浸って野生のポケモンを狩り続けて朝を迎え、今に至っていた。ナギが寝ないのはどう考えてもこのイベントが原因だった。
 レッドもかつては廃人並にプレイしていた身だ。期間限定イベント、なおかつそれが獲得経験値と獲得金額2倍ともなれば、それこそ1週間不眠不休で狩り続けていたこともある。今は頂点を極めてしまったからそこまでやりこむこともないが、ナギは今まさにかつての廃人レッドの軌跡を辿ろうとしていた。さすがに仕事があるから二日連続で徹夜するなんてことはないだろうが、元々頑丈な体ではない。1日分睡眠を取らなかっただけでも後々になってしっぺ返しをくらうだろう。そうなることは目に見えた。



「もー、ナギ、ゲームは起きてからすればいいだろ。」
「だってやれるときにやっとかないと、レッドに追いつけないもん。」



 ズキッ。
 今度は心臓にどくばりを打ち込まれた気分になる。ナギが必死になってレッドを追いかけようとしているのはレッド自身薄々気付いていた。けれども一度<原点にして頂点>などという二つ名を得てしまった以上、負けたり後に引けないのが男の性というもの。そのせいで新しいキャラを作ることも、かといってナギを置いてきぼりにしないよう、先に進むことも(というか現時点ではもう先など無いところに到達してしまったわけだが)出来ないでいる中途半端な自分に嫌気が差す。
 レッドは考えて考えて、考えたけれどもいい答えが見つからなかった。気付かれないようにため息をついて、とっても卑怯な最終手段に出ることにする。茶碗の中の残りの白米を掻きこんで味噌汁を一気にすすり、空いた食器を流し場に運んで水を張っておく。寝て起きた後に全部片付けるのがいつものやり方なのだ。突然ピッチを上げてご飯を平らげたレッドの勢いに、さすがのナギも異変を感じたらしい。テレビを見ていた目をぱちくりさせて、赤い瞳の幼馴染みを注視する。ここぞ勝負時だ、とレッドは思い切って着ていた黒の半そでTシャツを脱いだ。1枚しか着ていないから、脱いでしまえば当然上半身は裸だ。あらわになった色白の痩せ型上半身から目を逸らすように、ナギは慌てて目を両手で覆った。



「レレレレ、レッド、何してるの、ここ脱衣所じゃないわよ。」
「ナギが寝るまでこの格好で過ごす。」
「えええええ?!」





***********




卒論無事に出してきました。
疲れたのでちとタイム。


没…にしたい…

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2009'12.13.Sun
「ねぇ、何か欲しいものとかある?」



 いつものように遊びに来た幼馴染みの部屋のベッドの上で、ナギはcamcam(売り上げNo1の女性ファッション誌のこと)のページをめくりながらなんとなくそんなことを口にした。雑誌の中のモデル達は可愛いコートに身を包み、長い髪をくるくると巻いてご自慢の美しさを披露している。その中の一人が身につけているカチューシャは今働いている雑貨屋がつい最近仕入れたものと同じデザインだった。明日仕事に行ったら、在庫発注を少し多めにしとこうと考えつつ、どうやったらこんな風にお肌つるつるで綺麗になれるんだろう、と最近寒さで荒れがちな頬をさすっていると、なにかの崩れ落ちるような音が聞こえてきた。その音が少し尋常じゃなかったので雑誌から顔を上げて音がしたほうを見てみれば、先ほど質問を投げかけた相手がパソコン用の椅子からひっくり転げて落ちていた。



「大丈夫?」



 側まで行ってみてみると、レッドは驚愕に目を見開いて天上をガン見している。何か居るのだろうかと思って天井を見上げてみても、そこには何もなかった。視線からしてみても、ベッドの上のゴーストっぽい染みを見て驚愕しているわけでもなさそうだ。そもそも今更アレを見て驚くなど、この部屋に十数年寝起きしてきたレッドにはありえないことだろう。

 レッド、レッドさん、レッドく~ん、おーい。

 目の前で手をヒラヒラと振ってみても、レッドは回復の兆しを見せない。これは本当に打ち所が悪かったかと急激に心配になって携帯を取り出そうと手をポケットに突っ込もうとしたその時。



「ナギ、今なんていった?」



 化け物を見たように固まっていた目が、ぎょろりとナギの顔を見る。それは一種のホラーシーンのように思えなくもなく、ナギは少しばかりの恐怖を感じた。瞳が赤い彼のことだから、なおさらその恐さが際立っている。



「えっと、大丈夫って聞いたんだけど。」
「違う、その前。」
「その前?」



 大丈夫の前は一体何を言ったんだっけ。確か雑誌を読んでいて、なんとなく何かを口にしたような…。
 結構無意識に言っていたのだろう。言葉はなかなか思い当たらない。レッドはよいしょっと勢いをつけて上体を起こすと、打ち付けたであろう頭を抑えながら言った。



「欲しいものがある?って聞こえた気がしたんだけど、俺の聞き間違いか。」
「あー、それ言った言った。確かに言ったわ。」



 最近物忘れが激しくって、嫌になっちゃうよね。
 困ったように笑って見せたナギの肩を、むんずとレッドの両手が正面から掴みかかる。痛いわけではないが、ちょっとやそっとじゃその拘束からは逃れられなさそうな力は込められていて、普段そんな風に扱われることがない分、ナギはたじろいだ。そのことに気付いているのかいないのか、レッドはグイと顔を近づけて真剣な面持ちで尋ねてくる。



「それって何でもいいのか?」
「うん。」



 うなづいた後で、ナギはしまったと思った。何でもいいなんてことを言ってしまったら、引きこもりを初めて早数年の若干ヤミ気味少年のこと、何を要求してくるかわからない。さすがに臓物が欲しいとは言わないだろうが、もしかしたら髪の毛の10本でも欲しいといって気付かぬ間に通販で買った藁人形にそれを仕込み、笑顔で夜な夜な五寸釘で打ち付けたりするかもしれない。



「…前言撤回…一応良心をフルに活動させて私にしんどくない程度のものをお願いします…。」



 金銭的な面でも、精神的な面においても。
 付け足された条件にレッドは少しだけ落胆したようだったが、それでもめげずに何がいいだろうかと腕を組んで考え始める。



「お財布的なことを考えたら、上限は2万までだと助かるわ。」



 年末は普段の月に比べると出費が多い。仕事先や高校時代の知り合い、そのほかも含めると既に忘年会の予定は4件詰まっていた。ナギは酒をあまり飲まない分、会費に含まれた飲み放題の料金を捨てに行っているようなものだが、集まって騒ぐのは嫌いではない。付き合いを大切にしたいから、全部に参加の予定だ。



「でもなんで急に。」
「ほら、クリスマスもうすぐでしょ。」
「そうなのか?」
「そうなの。」



 ほら見て、今日は12月13日、と壁にかかったカレンダーを指差したナギは、印字された3月の文字にアレっと首を傾げる。世間は今12月のはずなのに、なんでこの幼馴染みのカレンダーは春の月のまま止まっているのか。動揺を見せるナギに、レッドはニコっと笑みを向ける。



「いい事教えてあげるよナギ。引きこもってると今日が何月で何日で何曜日とか、どうでもよくなってくるんだよ。だからカレンダーはめくらない。ちなみにあれは3年前のカレンダーだ。オレも3年ぶりにあそこにかかってあることに気付いた。」
「そ、そうなんだ…。」



 部屋の片付けはそこそこしているのに、そういうところには目が行かないのだろうか。うろたえるナギを傍目に、レッドは「うーんうーん」とお手洗の便座に座って小1時間唸る一家の大黒柱のような顔をしてみせる。そんなに真剣でなくてもいいだろうに、悩みすぎて綺麗な黒髪がはげたら大変だと、その頭に手を乗せてわしゃわしゃっとすると、突然パソコンからけたたましいベルの音がし始める。昔の家にある黒電話の音に近い。その音が何なのかはナギも知っている。スカイス(作中においてPCを使いネット回線を介して電話をするソフトのこと)の着信音だ。



「こんな真剣な時に一体誰だよ。」



 たかがクリスマスプレゼントを考えるのにそこまで真剣にならなくてもいいだろうに。ツッコミを飲み込んだナギの肩から手を放したレッドは、立ち上がって画面を確認し、アレっと驚きの声をあげた。









************







現代verだとなんか思うようにかけない。

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2009'12.12.Sat
 踏み出した足が深く積もった雪道に深い穴を作る。つま先がむき出しになったミュールは当然雪を通し、その結果タイツの足先の部分が盛大に濡れた。雪用のブーツを履いていないことを後悔するが、今から取りに戻るのも時間の無駄だと首を振る。仕方ないから、頼れる相棒をボールから出してその背に乗った。ふかふかの毛に包まれた相棒は、零下の中でもちっとも寒く無さそうだ。



「ウインディ、レッドが何処にいるか分かる?」



 ナギの問いかけに、ウインディは鼻を空に向けて数度ヒクヒクさせた。ポケモンのなかでも格別に嗅覚がいいウィンディは、たとえ辺りが雪一面だろうが、一度嗅いだことがある匂いを敏感にかぎ分ける。粉雪に紛れた主の探し人の香りを見つけたウインディは、指示を待たずしてその毛に覆われた太い後ろ足で雪を蹴った。大きな体躯は雪をかきわけ、ズイズイと先に進んでいく。ナギは振り落とされないようにしっかりと首に抱きつきながら山頂を見上げた。頂は白い煙の中に覆われて見えない。吹雪いているのは明らかだ。
 今日こうしてシロガネ山を訪れたのは、当初の予定にはなかったことだった。だから靴は完全に雪山とは無縁のミュールを履いているし、上着は防寒性の低い薄手のトレンチコート、その下は丈が短いニットワンピースを着ている。ウインディの温かい体に掴まっていなければ、ものの数秒で体の芯まで凍ってしまうような軽装だ。ブルーと一緒にタマムシデパートでショッピングをするだけの予定だったから、外を出歩くことも少なく、そこまで重装備でなくてもいいだろうと思っての服装だった。しかし、デパートでレッドに似合いそうなマフラーを見つけて買ってしまい、すぐ届けたかったのでその足で来たのだ。だが、比較的暖かいグレンタウンで育ったナギに雪山の寒さは致命的とも言える。



「寒いね…。」



 無意識に寒さに対する言葉が口をついて出ていた。ウインディは心配するように背の上の主を見る。自分は炎ポケモン、その身に炎を宿しているから、少々毛が無くなろうが寒さには強い。だからこの毛皮を分けることが出来たらいいのに―――その気持ちに反応するように、ナギの腰のボールがカタカタと揺れた。ナギが開閉スイッチを押す前に、自らの意思で白い煙と共に外に出てくる。



「イーブイ?」



 首元を白いふさふさの毛に覆われたイーブイが、自分に抱きつけといわんばかりにナギの腕の中に鎮座した。途端に茶色いボディが燃えるような緋色に染まり、炎のような体毛に変化する。このイーブイは遺伝子操作を受けて作られた特殊な固体故、己の意思でイーブイ族に体質を変化できる。今イーブイは、炎袋をその身に宿すブースターに変化し、ナギを暖めようとしていた。



「ありがとう。助かるわ。」



 ぎゅっと抱きしめればイーブイは嬉しそうにキューと鳴いた。とても暖かい。これなら凍えることなくレッドの元までたどり着けるだろう。ウインディに足元を、イーブイに上半身を暖めてもらいながら、雪深い山肌を進み続ける。てっきり山頂を目指すのかと思いきや、ウインディは山頂への道を逸れて森に向かった。クリスマスによく目にする木の合間をぬって行けば、黄色い背中が白いカーペットの上にちょこんと座っていた。レッドのピカであるのは尻尾の傷で一目瞭然だ。体重が軽いためだろう、体はほんの少ししか雪に沈んでいない。



「ピカ!」



 ナギの呼び声にピカは大きく耳を揺らし、振り向く。ピカピ!と鳴いたと思ったら、雪の上を猛烈なスピードで駆けてウインディの頭の上に飛び乗り、再会を喜ぶようにナギの頬に己の頬を擦り付けた。



「ピッピカ~。」



 言葉はわからないが歓迎されているのはピカの態度と顔つきで分かる。ピカが居るということはレッドも必ず近くにいるはずだ。ナギが尋ねるより先に、ピカはウインディから飛び降りて、白い雪の上を小さな足跡をつけながら木々の奥へ駆けていった。



「ピカ、どうしたんだよ。」



 聞きなれた声がピカが走っていったほうから聞こえ、ナギはほっとする。レッドの声に違いない。レッドは雪を掻き分けながらピカを頭に乗せてやってくる。その瞳がナギを捉えた瞬間、これでもかというくらい嬉しそうな笑顔を見せた。ずんずんと雪をかき、ウインディの側まで来てナギに両手を伸ばす。イーブイが二人の邪魔をしないように、ぴょんと地面に下りた。ナギはレッドの手に掴まり、ウインディの背から雪の上に飛び降りる。足が雪を深くえぐり、その身はずっぽりと雪に沈んだ。やはり成人に近い人間の体重では、ピカチュウやイーブイのように雪に受け止めてはもらえないらしい。



「ナギ、きてくれたんだ。」
「久しぶりだね。」



 *****************






明日は嫁とデートなのでここまで!

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2009'12.09.Wed
布団の上に投げ出したDSのスピーカーが、敗戦の音を空しく部屋の中に響かせた。
方やパソコン前の回転椅子に座った少年のDSからは、勝利のファンファーレが鳴り響く。



「んー、勝てないなぁ。」



データ上で一戦を交え終わったナギは、ボヤキながらベッド上にうつぶせていた身をクルリと反転させて天上を見た。
自分のものではない布団から、既に嗅ぎなれてしまった香りがして、ほっとする。
ゴーストにそっくりな天上の染みも、自分の部屋のものでは無いというのに、随分見慣れてしまった。
昔はあれが本当のお化けに見えて、よく怯えていたというのに。



「レベル差の問題だよ。オレのピカチュウのレベル88だし。」



椅子の背もたれに限界までもたれて座っていた少年が、背筋正しく座りなおしてベッドの上のナギを見る。
少年のDSは既に閉じてあった。
それは、再戦する意図がないという意思表示。
今晩こそ倒してやると意気込んできたものだから、ナギは落胆した。
オンラインゲーム『ポケットモンスター』の世界で<原点にして頂点>と呼ばれる幼馴染みの彼は、1日に1回しか戦いを挑ませてくれない。



「まだレベル80が一匹も居ない上に、レベル10の秘伝技専用ミュウをPTに入れて挑んでくる辺り、チャレンジャーだよな。」
「だって、そっちがロッククライム使わないと行けない場所に留まってるのがいけないんでしょう!育ててる子でロッククライム覚えられる子居なかったんだもん。ミュウなら全ての技マシン覚えられるから…空も飛べるし滝も上れるし、岩も滑れる!1匹でとってもお得でしょ。」
「伝説のポケモンをそんな風に使うなんて、昔だったら非難の嵐だよ。」
「今はマックに行けばDS1台につき1匹貰えちゃうからいいの!」
「自宅に居ても受け取れるけどね。」
「嘘?!」
「本当。まさかわざわざマックに行ったの?」
「うん。」



大きく頷くと、少年は椅子をクルリと回転させてナギに背を向けた。
パソコンの画面を見ているようにも見えるが、その肩は小さく揺れている。
声を殺して笑っているのは明白だった。
その仕草にカチンときて、ナギは静かにベッドから立ち上がる。
抜き足差し足忍び足、少年の背後にそっと立ち―――



「ナギ、画面に映ってるから丸分かりだよ。」
「えっ。」



椅子をひっくり返してやろうと考えていたナギは、振り向かずに言い切る少年の言葉にギクッと身をすくませる。
言われてみれば確かに、ピカチュウだらけの壁紙を背景にしたPC画面の表面に、うっすらとだが少年とその背後に立つナギの姿が映りこんでいた。
悪戯をする前にばれてしまった子どものような気持ちになり、思わず体が硬直する。
その間、少年は静かに椅子を回転させて、すぐ背後に迫っていたナギを見上げる。
黒髪の隙間から覗く瞳がにっこりと微笑んでいるが、実のところ笑っていないことをナギは嫌というほど知っていた。
コレはまずい。ヤバイ。危険だ。
今すぐ逃げなければロクなことにならない。
頭の中に警鐘が鳴り響く。
けれども足が、体が、まるで縫いとめられたように動かない。
まさか、この幼馴染みは現実に「くろいまなざし」が使えるというのか。
「だるまさんがころんだ」の状態で硬直してしまったナギの腰に、少年の両腕がそっと回る。
そのままクイと引き寄せられ、少年の両膝に跨る格好になった。
スカートが捲れあがった太ももに、少年の履きふるした柔らかなジーンズの布が擦れ、こそばゆい。
近い距離と、息が詰まるような圧迫感。
途端に体温が上昇するのを感じる。



「ねぇ、ナギ。今日母さん仕事先の慰安旅行で居ないんだ。」
「そ、そう。寂しいね。」
「ナギが居てくれたら寂しくないよ。…この家、オレたち二人だけだね。」
「あああああそこにゴーストっぽい影が。」
「ただの染みだよ。」



話を逸らそうと天井の染みを指差してみるものの、一蹴される。
今はくろいまなざし発動中の瞳と視線を合わせるのが恐くて明後日のほうを見れば、



「こっち見て。」



伸びてきた手に顎をつかまれ、グイと顔の向きを直された。
思いのほか目前に赤い瞳があって、息を飲む。
幼馴染みはこの赤い瞳を気にして家から出ない。いわゆる引きこもりだ。
けれどもナギはこの瞳が好きだった。
幼い頃から少年を被虐の的として成り立たせてきたこの瞳が、静かに燃える炎のようで好きだった。
彼自身それを知っているからこそ、真正面からナギを見る。接近することを許す。



「顔が赤くなってるよ。熱?」



顎をつかんでいた手が額の上にかぶさる。
それだけでは体温の判断がつかなかったのか、逆の手で己の前髪を掻き揚げ額を出すと、ナギの火照った額に押し付けた。
これでもかというくらいに顔同士が近づき、ナギはいよいよ混乱しはじめる。
こんなにも二人の距離が近づくのは、昔から全く無かったわけではない。
幼稚園以前から幼馴染をやっているのだ、それこそ一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝たことも数多い。
けれども、大人と呼べるに近い年齢になってからはどうだったか。
時々夜に二人でゲーム大会を開いては、真っ先にナギが寝て、気づいたら少年のベッドの中で背中合わせに寝ていることは何度かあった。
だが向き合ってこんなにまで接近することなど、ここ数年無かったような気がする。



「え…っと…、その…。」



声が上ずる。言葉が思い当たらない。
少し位置をずらせばお互いの唇が触れ合うような、繊細な距離。
無意識に吐息が震える。



「頬は熱いけど、額の温度は正常だよ。熱とは違うみたいだ。暖房に当たりすぎたのか?」



目と目の距離が、すっと遠のく。
腰の拘束が解かれ、やんわりと肩を押され、少年の膝の上から退く。
少年は椅子から立ち上がり、壁にかけたエアコンのリモコンを操作して、「そんなに温度は高くないんだけど…」と呟いた。
まるで何事もなかったかのように振舞う姿が憎らしく、かといって事実何事もなかったわけで、一人だけどぎまぎしていたことに、ナギは猛烈な羞恥を覚える。



「ちょ、ちょっと風当たってくるね!」



密室の中に二人だけでいるのは、この上なく恥ずかしいから。
温度を下げ終えた少年の傍らをすり抜けて、ドアを蹴破るように廊下へ飛び出した。
勝手知ったる他人の家とはこのことだ。
ろくに前も見ず、ただひたすらに廊下を走って階段を駆け下り、豆電球が照らし出す薄暗いリビングを通り過ぎて再びドアを蹴破るように外へ出る。
一瞬にして冷たい夜風が身を包み、吐き出した息が白く闇に広がった。
空には、満天の星。
夜色のカーテンに無数に散りばめられた白い星たちの中に、異彩を放つがごとく赤く煌く星が見え、まるで幼馴染みの瞳のようだと思った。
思い出すのは、ぐっと近くに見えた、赤の双眸。触れ合う額の温もり。
こんなにも冷たい夜風に包まれているというのに、ナギの頬は、まだ熱い。



玄関を飛び出したナギが空を見上げて一向に冷めない火照りを戻そうとしている頃。
ナギが飛び出していく原因を作った少年は、思いきりベッドの上にダイブした。
かれこれ十数年使ってきたベッドは、大きく軋んで、けれどもそう重くない少年の体を受け止める。
少年は、耳の奥がズキリと痛むのを感じた。
早まった血流が、細い血管を無理矢理押し広げているからだ。
胸の鼓動は、まるで100メートル走をした直後のように早い。



ナギを己の膝に乗せたとき、本当は体が密着するほど抱き寄せて、頭の後ろに手を回して、その唇に己の唇を這わせたかった。
けれども、あんなに可愛い顔で不安そうに見つめられたら、そんな乱暴な事、出来るはずもなく。



「本当、いつまでたってもナギには勝てないや…。」



淡い恋心を抱き続けて早十数年。
お互い誰よりも親しく近しい確証はあるというのに、どうしても決め手の一歩が踏み出せない。
気持ちを暴露することで、今の幼馴染という特権ある関係性を壊すのが恐かった。
だけど、理性に歯止めをかけるのもそろそろ限界が近いようだ。



「ナギ、好きだよ。」



家の外の彼女に、この声が届くことは無いけれども。
押さえ切れない想いを、ついさっきまで彼女が居たベッドのシーツに呟く。
くしゃ、と握り締めて皺になったシーツからは、愛しい少女の香りがした。

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