9月初旬の夜風は心地よい涼しさで、けれども薄い寝間着には少しだけ肌寒く感じる。
それが気にならないのは、一枚の羽織を二人で使っているため。ぴっとりと寄り添う卓の肩から伝わる温もりのおかげだ。
少しだけ恥ずかしいけれど、離れるのはなんだか寂しいからくっついたままでいる。
卓の家だから、誰かに見られる心配も無い。
「あーあ、また一つ離れちゃった。」
「すいません。」
「何で謝るんですか、こればっかりは仕方ないですよ。」
縁側でかわす他愛無い話。話題は卓が今日年を重ねたことについて。今日は卓の誕生日だったのだ。
これでまた一つ、差が開いてしまった。たとえ誕生日を迎えて一つ近づいたとしても、卓の次の誕生日が来れば、また離れてしまう。
時の流れは無情で、決して年齢差が縮まることはない。
「悔しいですね。追いつけないのって。」
「でも、年齢というのは重ねれば重なるほど、縮まるものなんですよ?」
「どういうことですか?」
「たとえば、年齢差が6つある夫婦がいるとします。旦那が高校生の頃、妻はまだ小学生です。」
「うわ、犯罪じゃないですか。」
「そうですね。でもお互いが20代になっているとどうでしょう。旦那が26歳。妻は20歳。」
「それはアリですね。」
「でしょう。つまり、年は重ねれば重ねるほど、気にならなくなるとういうわけです。」
「なるほど。」
ならば、自分が20代になれば、卓との年齢差なんて感じなくなるのだろうか。
それは違うと思う。
卓の前では、いつまでたっても自分は子どものままな気がする。
「卓さん、私、いつになったら追いつけるんでしょうか。」
「…そうですね。」
不意に、肩に回された手に力が篭った気がした。
「案外、もう追いついているのかもしれません。」
耳元に吐息がかかってゾワリと首の後ろが総毛だつ。気持ち悪いわけではない。生理的反応だ。
びっくりして顔を横に向けると、コレでもかというくらい美しい顔がすぐ側にあった。
眼鏡の奥の瞳はやけに真剣で、吸い込まれそうになる。
「貴女は気づいていないのかもしれませんが―――」
卓は言葉を切って、ふと困ったように微笑んだ。
まるで、やり場の無い気持ちをどこにぶつけたらいいのか、迷うように。
「すみません、今のはなかったことに。」
「えっ、き、気になりますっ!!!」
卓は曖昧に笑うだけで、答えようとしない。
悔しいけれど、こうなるとどれだけ食い下がろうが決して口を割らないのが卓だ。
仕方ないから、誕生日プレゼントに持ってきた手作りの和菓子を自分で頬張りながら、空を見上げる。
やけに霞んだ月が見えて、まるで卓みたいだと思った。いつだって彼はこの月みたいに、核心がつかめないから。
だから、知る由も無かった。
卓が、「年下の女の子ではなく、一人の女性として貴女を見ている。」と言おうとしていたことに。
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卓さんお誕生日おめでとうございますっ!!!
てなわけで夢主で意味不明なお話です。
一回丸々話し書き直してしまいました…orz