「自爆しちまった。」
窓から差し込む紅い夕日が机や椅子の影を長くする、放課後の教室。
やけに真剣な声音で呟く真弘に、珠紀は思わず手元の英単語本を閉じて貌を上げた。
いつの間にそんな近距離までやってきたのか、さっきまで黒板に落書きをしていたはずの翡翠の瞳がコレでもかというくらい間近にあって、少し驚く。
八の字に眉毛を吊り上げた目は三白眼で、精一杯凄みを利かそうとしていたけれども、元が可愛らしいつくりなのでそこまで怖いとは思わない。
「で、それがどうしんたんですか?」
「お前っ、最低だな!!普通もっと慰めの言葉とかあるだろーが!?お前は鬼かっ!?」
「鬼は拓磨ですよ。だいたい自爆って、ポケ○ンか何かでしょう?」
珠紀が小学校時代に誕生した某有名ゲーム会社の作品であるポケ○ン。
シリーズを重ねに重ね、どの作品も必ず爆発的な売り上げを記録している。
いまや世界規模でプレイされている、日本が誇るゲームだ。
真弘も少しこの前、最新作と、プレイするための本体を一緒に購入していた。
ゲームの中には自爆という技があり、使うと大ダメージを相手に食らわせることが出来るのだが、同時に自分自身が瀕死になってしまう。きっとそれを使ったか相手に使われたのだろう。
だが所詮はゲーム。それほど騒ぎ立てるほどのことではないと思う。
今は明日の英語のテストのためにとにかく英単語を覚えないといけないから、こうやって勉強の邪魔をしてくる真弘は少しだけ邪魔だ。
限界まで近づいた顔を押しのけようと手を伸ばすと、逆にその腕を掴まれてしまう。
「先輩、私勉強したいんですけど。」
「そんなん後回しだ!今は自爆をどうするか考えるのが先決だっ!!!!」
「だーかーらー、ポケ○ンセンターに連れて行けばいいじゃないですか。」
「誰がポケモンっつった!!!自爆したのはココの管理人なんだよ!!」
珠紀は閉じて膝の上に置いていた英単語の本を床に落とした。
管理人が自爆。
耳を疑う発言だったが、真弘の貌は真剣そのもの。どうやら気を引くためのはったりではないらしい。
「それ、本当ですか?」
「ああそうだ。」
「…それは酷いですね。」
一体管理人はどんな容態なのだろう。
そもそも自爆に至る経緯はなんだったのか。っていうか、どうやって自爆したのか。
手榴弾を抱えて、とか。雨のごとく降り注ぐ機関銃の嵐の中に飛び込んで、とか。
珠紀の頭の中で、少し前の戦争時代の日本で自爆しようとする管理人の姿が数パターン思い浮かぶ。
どれも内臓を散布させて死に絶えている姿だったので、思わず吐き気をもよおした。
口元を押さえる珠紀を気遣った真弘が、せっせと背中をなでる。
「つわりか?」
「違います。」
冗談だとは分かっていても、ぴしゃりと言ってのける。
真弘はすこしつまらなさそうに、珠紀の隣の席の椅子を引いて座った。
頭を抱えてうんうんうなっている。こうやって悩む姿は、フィオナ先生の胸のサイズがどれ位かを考えるときしか見たことが無い。つまり、真弘の中では相当大きな出来事なのだろう。
「自爆…やばいよなぁ。」
「そりゃそうですよ。」
「自爆してやる気無くして俺と珠紀のエロ小説が書かれなくなったら俺泣くわ。」
「エロは余計ですエロは。」
そもそも自爆した時点で、やる気がどうのこうのレベルではないだろう。
生きるか死ぬか、というか既に死んでいるのではないだろうか。
ついにこのサイトも終わりか。
珠紀は英単語の本を拾い上げて、学生鞄に詰め込んだ。
管理人が自爆したのなら、そろそろ別のサイトに移るのが懸命だ。
「先輩、行きましょう。」
「おう。」
教室を出る珠紀の後を、真弘は少し遅れて追いかける。
後ろ手で閉めようとした教室はがらんどう。
真弘は誰も居ない教室に向かって、小さい声で呟いた。
「キリバン自爆は本当ありえないだろ…。」
888を自爆しちゃって思いついたねたorz
わけわかりません。