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欠片むすび

ポケスペのSSや日記などを書いていこうと思います。

2025'04.20.Sun
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2009'12.18.Fri
 その日はとても寒かった。
 AM7:00と右上に表示されたテレビ画面の中で、お天気お姉さんが年末一番の冷え込みであることを大げさに語っている。言われてみれば確かにいつもより寒い。レッドは手元に置いたエアコンのリモコンで室内の温度を30度に設定する。さっきよりも暖かい空気を吐き出し始めたエアコンを見て隣に座るナギはぎょっとしたようだった。ナギは滅多に暖房を使わないから、こうして平気でガンガン温度を上げることが信じられないのだろう。うちに来てるときくらいは気兼ねせずにゆっくり温もっていってね、と頭の中にニヤニヤ動画(リアルタイムに視聴者がコメントを書き込める機能がついた集合動画サイト)で人気のとあるキャラクターの顔が思い浮かぶ。
 年末一番の冷え込みのせいか、家を車で出る人が相次いで交通機関は渋滞の極みらしい。雪は降っていないが路面が凍結しているおそれがあるため、皆一様に運転が慎重で、余計長蛇の列を作る羽目になっている、とお天気お姉さんに代わって気象予報士のおじさんが付け加えていた。



「あーあ、朝から皆さんご苦労なことだなぁ。」



 ―――まぁ自分には関係ないんだけど。
 レッドは腹のうちでそう思いながら茶碗に盛られた白米を左の手に持った箸で口に運んだ。今は両利きだがもともと左利きだから、歯を磨いたりご飯を食べたりといった日常生活のちょっとした動作は左手で行う癖が抜けていない。



「うちは田舎だからまだいいほうだよね。」
「ってかナギ車持ってないから関係なくない?」
「それはそうだけど、ほら、レッドのおばちゃんは車通勤じゃん。今頃ニビの手前辺りで渋滞に巻き込まれてるんじゃないかな。」
「ああ、そうかもな。」



 隣の椅子に腰掛けたナギは目の下にクマを作った顔でレッドの母親を心配するような発言をする。オレはどちらかというと寝不足のナギが心配だよ、とレッドは口に出さず心の中で呟いた。

 有給の調整で急な休みが貰えたと喜びに浮き足だつナギがDS片手に家に転がり込んできたのは昨晩のこと。いつもならよほど遅くても5時ごろにはDSの電源をつけっぱなしで寝るナギが、久々に一睡もすることなく朝のこの時間まで起きている。レッドにしてみればこの時間帯まで起きているのは当たり前のことだが、普段寝ているはずの時間に起きていたナギの体は大きな負担を抱えているはずだ。レッドはもう一度テレビ画面右上の時計を見た。AM7:03。まださっきから3分しか経ってない。が、一刻もナギを床に就かせなければならない。



「ナギ、とりあえず朝ごはん食べたら寝よう。オレ眠い。」
「ああ、私このまま今日の夜まで起きてるから。」



 ガツン、と頭を金槌で殴打されたような衝撃がレッドの全身を駆け巡る。今のは聞き違いだろうかと箸を箸置きに置いて、汚いとは思いつつナギ側の耳をかっぽじってみる。ふっと息を吹きかけて、あまり無い粉をあさっての方角に吹き飛ばした後、



「ナギ、今寝ないって言った?」
「うん、寝ない。起きてる。レッド寝てていいよ。」



 今度は金槌どころかメタグロスのコメットパンチをノーガードで食らったような衝撃が全身を支配した。いつもは聞き分けのいいナギが、どうして頑なに寝ようとしないのか。
 思い当たるのは、今レッドの部屋のベッドの上に電源を点けたまま放置してある充電器を繋いだままのDSに入っているソフト。言うまでもなくポケットモンスターオンラインDS版のカートリッジが入っているわけだが、問題はソフト自体ではなく、その中で行われている期間限定イベントだ。ポケットモンスターオンラインでは今、年末クリスマス企画と称して25日まで獲得経験値及び獲得金額2倍イベントをやっている。昨晩はイベント開始日だった。そのためかは知らないが、昨晩もレッドのポケモンたちに手も足も出せなかったナギは、敗戦後黙々と草原や洞窟に入り浸って野生のポケモンを狩り続けて朝を迎え、今に至っていた。ナギが寝ないのはどう考えてもこのイベントが原因だった。
 レッドもかつては廃人並にプレイしていた身だ。期間限定イベント、なおかつそれが獲得経験値と獲得金額2倍ともなれば、それこそ1週間不眠不休で狩り続けていたこともある。今は頂点を極めてしまったからそこまでやりこむこともないが、ナギは今まさにかつての廃人レッドの軌跡を辿ろうとしていた。さすがに仕事があるから二日連続で徹夜するなんてことはないだろうが、元々頑丈な体ではない。1日分睡眠を取らなかっただけでも後々になってしっぺ返しをくらうだろう。そうなることは目に見えた。



「もー、ナギ、ゲームは起きてからすればいいだろ。」
「だってやれるときにやっとかないと、レッドに追いつけないもん。」



 ズキッ。
 今度は心臓にどくばりを打ち込まれた気分になる。ナギが必死になってレッドを追いかけようとしているのはレッド自身薄々気付いていた。けれども一度<原点にして頂点>などという二つ名を得てしまった以上、負けたり後に引けないのが男の性というもの。そのせいで新しいキャラを作ることも、かといってナギを置いてきぼりにしないよう、先に進むことも(というか現時点ではもう先など無いところに到達してしまったわけだが)出来ないでいる中途半端な自分に嫌気が差す。
 レッドは考えて考えて、考えたけれどもいい答えが見つからなかった。気付かれないようにため息をついて、とっても卑怯な最終手段に出ることにする。茶碗の中の残りの白米を掻きこんで味噌汁を一気にすすり、空いた食器を流し場に運んで水を張っておく。寝て起きた後に全部片付けるのがいつものやり方なのだ。突然ピッチを上げてご飯を平らげたレッドの勢いに、さすがのナギも異変を感じたらしい。テレビを見ていた目をぱちくりさせて、赤い瞳の幼馴染みを注視する。ここぞ勝負時だ、とレッドは思い切って着ていた黒の半そでTシャツを脱いだ。1枚しか着ていないから、脱いでしまえば当然上半身は裸だ。あらわになった色白の痩せ型上半身から目を逸らすように、ナギは慌てて目を両手で覆った。



「レレレレ、レッド、何してるの、ここ脱衣所じゃないわよ。」
「ナギが寝るまでこの格好で過ごす。」
「えええええ?!」





***********




卒論無事に出してきました。
疲れたのでちとタイム。


没…にしたい…

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