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欠片むすび

ポケスペのSSや日記などを書いていこうと思います。

2025'02.09.Sun
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2007'09.01.Sat

「自爆しちまった。」


 窓から差し込む紅い夕日が机や椅子の影を長くする、放課後の教室。
 やけに真剣な声音で呟く真弘に、珠紀は思わず手元の英単語本を閉じて貌を上げた。
 いつの間にそんな近距離までやってきたのか、さっきまで黒板に落書きをしていたはずの翡翠の瞳がコレでもかというくらい間近にあって、少し驚く。
 八の字に眉毛を吊り上げた目は三白眼で、精一杯凄みを利かそうとしていたけれども、元が可愛らしいつくりなのでそこまで怖いとは思わない。



「で、それがどうしんたんですか?」
「お前っ、最低だな!!普通もっと慰めの言葉とかあるだろーが!?お前は鬼かっ!?」
「鬼は拓磨ですよ。だいたい自爆って、ポケ○ンか何かでしょう?」



 珠紀が小学校時代に誕生した某有名ゲーム会社の作品であるポケ○ン。
 シリーズを重ねに重ね、どの作品も必ず爆発的な売り上げを記録している。
 いまや世界規模でプレイされている、日本が誇るゲームだ。
 真弘も少しこの前、最新作と、プレイするための本体を一緒に購入していた。
 ゲームの中には自爆という技があり、使うと大ダメージを相手に食らわせることが出来るのだが、同時に自分自身が瀕死になってしまう。きっとそれを使ったか相手に使われたのだろう。
 だが所詮はゲーム。それほど騒ぎ立てるほどのことではないと思う。
 今は明日の英語のテストのためにとにかく英単語を覚えないといけないから、こうやって勉強の邪魔をしてくる真弘は少しだけ邪魔だ。
 限界まで近づいた顔を押しのけようと手を伸ばすと、逆にその腕を掴まれてしまう。



「先輩、私勉強したいんですけど。」
「そんなん後回しだ!今は自爆をどうするか考えるのが先決だっ!!!!」
「だーかーらー、ポケ○ンセンターに連れて行けばいいじゃないですか。」
「誰がポケモンっつった!!!自爆したのはココの管理人なんだよ!!」



 珠紀は閉じて膝の上に置いていた英単語の本を床に落とした。
 管理人が自爆。
 耳を疑う発言だったが、真弘の貌は真剣そのもの。どうやら気を引くためのはったりではないらしい。



「それ、本当ですか?」
「ああそうだ。」
「…それは酷いですね。」



 一体管理人はどんな容態なのだろう。
 そもそも自爆に至る経緯はなんだったのか。っていうか、どうやって自爆したのか。
 手榴弾を抱えて、とか。雨のごとく降り注ぐ機関銃の嵐の中に飛び込んで、とか。
 珠紀の頭の中で、少し前の戦争時代の日本で自爆しようとする管理人の姿が数パターン思い浮かぶ。
 どれも内臓を散布させて死に絶えている姿だったので、思わず吐き気をもよおした。
 口元を押さえる珠紀を気遣った真弘が、せっせと背中をなでる。



「つわりか?」
「違います。」



 冗談だとは分かっていても、ぴしゃりと言ってのける。
 真弘はすこしつまらなさそうに、珠紀の隣の席の椅子を引いて座った。
 頭を抱えてうんうんうなっている。こうやって悩む姿は、フィオナ先生の胸のサイズがどれ位かを考えるときしか見たことが無い。つまり、真弘の中では相当大きな出来事なのだろう。



「自爆…やばいよなぁ。」
「そりゃそうですよ。」
「自爆してやる気無くして俺と珠紀のエロ小説が書かれなくなったら俺泣くわ。」
「エロは余計ですエロは。」



 そもそも自爆した時点で、やる気がどうのこうのレベルではないだろう。
 生きるか死ぬか、というか既に死んでいるのではないだろうか。
 ついにこのサイトも終わりか。
 珠紀は英単語の本を拾い上げて、学生鞄に詰め込んだ。
 管理人が自爆したのなら、そろそろ別のサイトに移るのが懸命だ。
 


「先輩、行きましょう。」
「おう。」



 教室を出る珠紀の後を、真弘は少し遅れて追いかける。
 後ろ手で閉めようとした教室はがらんどう。
 真弘は誰も居ない教室に向かって、小さい声で呟いた。



「キリバン自爆は本当ありえないだろ…。」







888を自爆しちゃって思いついたねたorz
わけわかりません。

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2007'08.30.Thu
 涼しさを孕んだ心地よい風が、髪を上げた首筋を撫ぜる。
 熱中夜はもう最盛期を過ぎたらしく、今夜の気温は前日までの寝苦しい夜に比べて格段にすごしやすい。
 一気に気温が下がったのは、日中に雨が降ったのも手伝っているのかもしれない。



 起きだちに見たニュースで皆既月食のことを取り上げていた。
 けれども全国の天気予想図はどの地域も雨マークがびっしり。
 皮肉なことに、アナウンサーが皆既月食の説明をしている途中で曇天からとうとう雨が降り出した。
 数年ぶりの皆既月食。今回は見ることが出来ないと思っていたのだが、神様が味方したのか、夕方を過ぎて、唐突に降りしきる雨が止んだ。
 その直後に真弘から電話がかかってきて、少しはやめの月見に誘われ、今に至る。



「どんどん消えていきますね~。」
「隠れてる部分、本当に赤色に見えるんだな。」



 最初は白い満月が南西の夜空に浮かんでいたのだが、時が経つごとに欠けていき、今では半分にも満たない上弦の三日月になっている。
 陰になっている部分は完全な闇に染まるというわけでなく、うっすらと紅色だ。
 美鶴が気を利かせて作ってくれた月見団子をつまみながら、二人して空を眺める。
 鈴虫の声がやけに耳につく。彼らは一体いつ頃から鳴き始めていたのだろうか。
 知らず知らずのうちに、秋は確かに近づいてきている。
 月を見て団子をつまみつつ、時折隣の真弘をちらりと窺いみる。
 いつもは覇気に満ちた顔つきなのに、今晩はやけに寂寥感溢れる瞳で欠けゆく月を眺めている。
 時々、本当に時々だが、すぐ隣にいるはずなのに、やけに遠い存在に感じることがある。
 手を伸ばせば触れることが出来るにも関わらずそんな風に感じてしまうのは、真弘の意識が珠紀の側にないからだ。
 こういう風にぼんやりしているときの真弘は、珠紀のうかがい知れない「何か」に思いを馳せている。
 体当たり的な真弘の愛情表現に嘘偽りがないことは十分理解しているので、浮気だろうかと心配することはないが、それでも距離を感じてしまうのは悲しい。
 だから、そういう時は自分から近づいていく。
 浴衣の袖を捲り上げて剥き出しになっている細い肩に凭れ掛かると、真弘は少し驚いたように珠紀を見た。
 あと僅かしか残っていない三日月の光を浴びた顔は、遥彼方に飛び去っていた意識を取り戻したのか、いつものような覇気で溢れている。



「先輩、何考えてたんですか?」



 触れて欲しくないことなら、真弘は頑として答えない。
 そういう時は珠紀もむやみやたらに詮索しないことにしている。
 けれど今回はそれほど内緒にしたいことでもなかったようで、困ったように頭の後ろを手でわしゃわしゃしながら、小さく呟いた。



「今こうしてお前と一緒にこの月を見てるのが、なんだか信じられなくてよ…。」



 一瞬だけ、翡翠の瞳が陰りを見せる。
 鬼切丸が消滅した今でも、真弘はまだ過去の呪縛にとらわれている。
 それは遠い遠い昔のこと。真弘がまだ生まれていない、古い過去。先祖から続く呪縛。
 いつになったら全てを忘れることが出来るのだろう。
 過去から続く因果は断ち切ったはずなのに、それでも真弘はまだ抜け出せずにいる。
 彼の中に眠るヤタガラスが、いまだ全てを引きずり続けているからなのだろうか。



「先輩。」



 珠紀は両腕を広げて、真弘に微笑む。ここにいることを証明するために。
 真弘は一瞬戸惑って、けれども余計な気遣いをさせてしまったと苦笑して、その腕の中に体を寄せた。 
 お互いの背中に腕を回して、抱きしめあう。
 触れ合う温もりは、二人が確かにこの世に存在している証。
 二人の逢瀬を見て恥ずかしがるかのように、月が完全な月食を迎えて姿を隠す。瞬く星のおかげで真っ暗とは行かないが、それでも周囲が暗くなったのは間違いない。
 闇に同化するように赤く染まった光のない満月に見守られ、影を失った二人の唇はひっそりと重なり合った。
 

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2007'08.28.Tue
今日は中学校時代の友達たちと回転寿司を食べに行きました。
席に着いたら「茶碗蒸しと赤だしはいかがですか?」と進められたので「茶碗蒸し一つお願いします。」と頼んだら…



店員「すみません、茶碗蒸しもうやってないんですよー。」



ちょwwwお勧めしといて断るんですか?wwwww
六皿ほど食べておなかいっぱいになったので、その後海に花火を見に行きました。
今日は皆既月食だったの、皆様はご存知でしょうか?
既月食真っ最中の月に向かって車を走らせ、海岸について二時間ほど花火をし、帰る車の中でつけたラジオ…。


パーソナリティーの一人の声が岡野さんにそっくりΣ|●゚Д゚●|
うわああああ、すっごく真弘先輩に聞こえるっ!!
その人は19歳らしいです。惜しいような当たってるような…。
後部座席でもんどりうちながら真弘先輩似の声に聞きいった帰り道でした。
いやはや、これから毎日ラジオ聞きますwww

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2007'08.27.Mon
 夏の太陽を覆い隠すように現れた灰色の厚い雲は、予想以上に長い長い雨を運んできた。
 しとしとと降り注ぐ雨に、珠紀は小さく息を吐く。



「今日は出かけるのやめましょうか。」



 背後に控えた拓磨と祐一が頷く。
 一人だけ「えーっ!?」と嫌そうに非難の声を上げた真弘だったが、両サイドを囲む背の高い男二人になんともいえない表情で見つめられ、しぶしぶ頷いた。
 天気予報でも予期できなかった突然の雨。
 真夏にしては珍しい長雨は、本日街まで服を買いに行くつもりだった四人の予定を完全に狂わせた。
 ひとまず珠紀の家に集合したまでは良かったのだが、予定がつぶれては集まった意味が無い。
 かといって雨振る中をいちいち帰るのは面倒なので、部屋の一角でごろごろしている。
 祐一は真っ先に壁に背をもたれて眠り、拓磨は肌身離さず持っているクロスワードの本を広げる。
 何も持ってきていなかった真弘はあまりにもつまらなくて、珠紀の髪や服を引っ張ってみたり。
 けれどもすぐに飽きて、我慢の限界だといったようにガバリと立ち上がった。



「暇だっ。暇すぎるっ!!!なんか面白いこと無いのかよ!」



 部屋の中央で精一杯わめいたところで、この古い珠紀の家にはたいした遊び道具が無い。
 真弘が好きそうなものなんて、余計に無い。
 このままほうっておくと部屋の中で暴れられかねないので何か無いだろうかと必死に思案する珠紀の肩を、いつの間にか壁から離れた祐一がポンと叩いた。



「ババ抜きをしよう。」



 胸ポケットから取り出される、トランプの束。
 ババという言葉に一瞬真弘がニヤリと笑って珠紀を見たが、無視する。
 いちいちこんなことに反応する年ではない。というか、祐一がトランプを持っていることに少し驚きだ。



「いいっすね、ババ抜き。せっかくだから何か賭けましょうよ。」
「拓磨にしちゃあいいこと言うじゃねえか。よし、なんにする?」



 面白いものを見つけた子どものように目を輝かせる真弘。拓磨は一瞬考え込むように目を閉じて、開いた時には祐一を見据えていた。
 祐一はその金色の瞳を一瞬細くして、小さく頷く。



「1番早くあがったものが、この場にいる一人を今日一日好きなように扱える。」
「……。」



 拓磨と祐一、そして真弘の視線がいっせいに珠紀に集まる。
 まるで飢えた獣のような視線を三方から浴びせられ、珠紀は思わず縮こまった。
 三人の中で、景品は珠紀であると、問答無用で一致しているらしい。
 先に彼らに上がられてしまったら、間違いなくいやな展開になりそうだ。
 かといって、今ココで賭けの内容を拒否することは出来ないだろう。
 誰が勝つかは運次第。条件は誰も同じ。要するに、珠紀が勝てば問題ないのだ。



「じゃ、早速しようぜ。」



 畳の上に、円になるように座る四人。 珠紀の正面に真弘がいて、両サイドには祐一と拓磨がいる。
 祐一は手にしたトランプを拓磨に渡した。自分で配るのが面倒くさいからだ。
 拓磨はハイハイ俺がやりますよ、とすばやくトランプを配る。
 珠紀の手元に回ってきたカードはダブりを捨てると最終的に5枚に減った。それに比べて、正面の真弘の手札はやたら多い。拓磨と祐一は6枚。どっちもどっちといった感じだ。
 じゃんけんをした結果祐一が勝ったので、祐一が真弘の手札を抜く。初っ端から祐一は手札を捨てた。
 真弘が拓磨の手札を引いて、捨てて、拓磨が珠紀から一枚抜いて、また捨てる。
 祐一から手札を抜き取った珠紀は、プラスチック製の白地に書かれたピエロに思わず顔をしかめた。



「おっ、珠紀のところにババが行ったか。」



 正面の真弘は、多い手札で自分を仰ぎながらにやりと笑った。
 図星だ。顔に出してしまったことを悔いる。見事にババをよこした祐一を仰ぎ見れば、金色の瞳は涼しげに見返してくるだけで、ちっとも感情が読み取れない。
 一番厄介な相手だ。
 同じ工程を何度か繰り返して、7回目には、珠紀の手札は2枚になっていた。そして祐一は1枚。
 珠紀はこの一枚を引かなければならないということで、必然的にゲームの勝者は祐一になる。
 最後の一枚を珠紀が引いて、祐一はあがった。その後はとんとん拍子。結局最後は珠紀と真弘の一騎打ちで、なんとか珠紀が勝つことが出来た。
 けれども賭けに負けたのは事実。



「…そうだな…。」



 勝った祐一が、思案するように金色の瞳を眇める。
 その瞳に射すくめられ、珠紀は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
 祐一は、きっと変な願いをしてこないと思う。というか、そう思いたい。
 白い指先がツツ、と珠紀の頬をなでる。
 真弘がコレでもかというくらい目を半眼にしてにらみつけるけど、負けたことは事実。
 賭けに乗ってしまった時点で文句を言える立場ではないので、グッと我慢だ。
 拓磨はそんな真弘を傍らで見下ろして苦笑するばかり。少しだけその瞳には残念な色が浮かんでいるが、生憎のところ、それに気づくものは一人としていない。



「珠紀。」
「は、はいっ。」



 静かな、感情の読み取れない声に名を呼ばれ、思わずぴんと背筋が伸びる。
 景品に選ばれたことは確実だ。
 祐一は珠紀の体をやんわりと自分に引き寄せ、しゃがんだ。
 つられてしゃがむと、膝の上に白い髪が散らばる。少しの重みとぬくもりが預けられて、むき出しの膝が少しだけくすぐったい。



「て、てめぇっ!!祐一っ!!!何してんだっ!!!」
「膝枕だが。」
「『膝枕だが。』じゃねえっ!!!誰の許可を得てやってる?!」
「全員の同意の下だ。なぁ拓磨?」
「…そうっすね、そういう”賭け”でしたから。」



 そう呟く拓磨は、やっぱり何処か名残惜しそうに珠紀の膝を見ている。
 真弘は苛立ちのあまり舌打ちして、けれども自分も率先してその賭けに乗ってしまったものだから、これ以上わめくわけにも行かない。
 誰にぶつけることも出来ない怒りをもてあまし、そのまま部屋を飛び出していく。
 拓磨は小さくため息をついて、その後を追いかけた。
 広い背中が語る。「ごゆっくり。」、と。
 襖が閉じて、広い部屋は無音の空気に包まれた。



「…その、祐一先輩ってババ抜き強いんですね。」



 無言が耐え切れなくて、適当な話題を持ち出してみる。
 祐一は閉じかけていた金色の瞳を一瞬だけめんどくさそうに開いて、再び閉じた。



「別に、強いわけじゃない。見えただけだ。」
「…へ?」
「今度から背の高い相手とババ抜きをする場合は、絵柄を出来るだけ下に傾けたほうがいい。じゃないと丸見えだ。」



 丸見え。つまり祐一は珠紀と真弘の手札が分かっていたから、勝てたというのか。
 そういえば、拓磨も最後の最後までババを珠紀から抜くことは無かった。
 拓磨にも珠紀の手札が見えていたのかもしれない。



「真弘には教えるな。言うと怒るから。」
「…そう、ですね。」



 身長が小さいせいで手元が丸見えだと言っているようなものだから、身長に敏感な真弘が聞けば絶対怒る。
 今度からトランプをするときは絶対絵柄のほうを自分に深く傾けてしようと心に決める珠紀に、祐一は小さく呟いた。



「たまには許してもらいたいものだ。いつも真弘が独占しているのは、面白くない。」



 守護五家は玉依姫のものであり、同時に玉依姫は守護五家全員の姫であらなければならないのだから。

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2007'08.27.Mon
 白い練乳アイスが溶けて指に滴る。
 慌てて舐め取ると、やけに痛いほどの視線を感じた。


「…なん、ですか…?」


 痛いほどの視線を送ってくるのは真弘先輩。
 私の一つ上でありながら背は少し小さい。ちなみに背のことを言ったら怒られるから、口にしないのが決まりごと。
 小さい癖して人一倍態度だけはでっかくて、周りから「身長のための栄養が全て態度に回ってるんじゃないの?」なんていわれるくらいだ。
 でも、でかい態度に比例して、いろんな面で頼りになる。
 口先だけじゃなく、ちゃんと実力が伴っているから、そこは素直に尊敬している。
 守護者の一人である先輩は、嬉し恥ずかしながら、私の恋人だ。
 守護者兼先輩にして恋人である真弘先輩は、さっきから穴が開くほど私のことをガン見していた。
 私というか、指に滴る乳白色の溶けたアイスを。
 先輩は先にアイスを食べ終えて、木製の平べったい棒が一本ゴミ箱の中に入っている。
 食べ物に関しては私よりも執着心の強い先輩のことだから、欲しいのだろうか。



「食べます?」



 真弘先輩は一瞬ピクリとこめかみを引きつらせたけど、何を思ったのかスーッと寄ってきて差し出した私の腕を強く掴んだ。
 そして、強引に口元にアイスを運ぶ。



 と思ったら、



「っ…!!!」



 ねっとりとした暖かい何かが指にまとわり付いて、思わずびっくりする。
 慌てて手を引っ込めようとしても、真弘先輩が手を掴んでいるせいで動かせない。
 見れば、先輩の猫のようにザラリとした小さな舌が私の指をゆっくりと舐めていた。
 目も覚めるように赤いそれは生暖かくて、私の冷えた指先をチリリと焦がす。
 指先から甘い痺れが全身に伝わって、鼓動が早くなるのが分かった。



「せ、せんぱいっ」
「お前、俺が食べ物のことしか考えてないって思ってるだろ。」
「そういうわけ、じゃ…ひゃっ…!」



 今にも溶け落ちてしまいそうなアイスの棒は先輩の手に渡る。
 あとちょっとでアイス本体が全部棒から落ちそうだという寸前で、ブドウを入れた涼しげな器に突っ込まれた。
 なんとかアイスが畳の上に落ちるのは免れたけど、先輩は私の手を舐めることをやめない。
 指先からツツ…と下りて、指と指の間を舐められた途端、甘い痺れが強く体を震わせた。
 息が詰まって、腰の辺りがむずむずしてくる。
 今日は夏休みの宿題で分からないところを先輩が教えてくれる予定だったのに、コレじゃあ勉強どころか…身が危ない。



「俺が、一体どういう気持ちでお前を見てたか分かるか?」
「わ、分かりません…。」



 アイスを欲しがっているようにしか見えなかった、なんて言ったらそれこそ怒られてしまう。
 答えられない私を責めるように、舌が執拗に指を舐める。
 溶けたアイスはすっかり舐め取られてしまって、もう舐めるものなんて無いはずなのに。
 真弘先輩は暫く私の指の味を堪能した後、小さくため息を付いて、ポツリと漏らした。



「お前がアイスを舐め取ってる姿がエロくて、押し倒しそうになるのを必死に我慢してたんだっつーの。」
「…へ?」
「なのにお前は『食べます?』だぞ?俺が必死に我慢してるのに、何も分かってない顔で『食べます?』だぞ!?」



 やけに真剣な翡翠の瞳が、目の前に来る。
 背中に畳の硬さを感じて、押し倒されたのだと気づくまで、少し時間がかかった。
 常人よりも少しだけ鋭利な小さい歯の隙間から、赤い舌がちらつく。
 唇が、音もなく言葉をつむいだ。



「望みどおり、くってやる。」と。



 

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