2008'03.23.Sun
旅先で物を落とすことほど、不幸なことは無い。
更にそれが貴重品であるならば、とんでもない打撃となる。
珠紀はまさに今、その不幸な事態に直面していた。
「…携帯が、無い。」
小さな呟きに、真弘はものすごく幸せそうな顔を一瞬にして不機嫌で彩り、視線を正面に置かれたハンバーガーの山から珠紀に移した。
ここは京都駅のすぐ近くにあるハンバーガーショップ。
都会特有の狭いスペースを活用するべく地下に設置された客席で、真弘は一番安いバーガーを4つも注文して、今まさに食べようとしていたところだ。
ちなみに珠紀はチーズバーガーと最近発売されたシャカシャカなんとやらの2品目をセレクトしたが、携帯を無くしたショックのせいか、目の前の2品目はちっとも喉を通りそうになかった。
「ドコで落とした?」
「…分かりません。」
二人が京都駅についてからもう5時間は経過している。
珠紀が最後に携帯を弄った記憶は、2時を過ぎた頃。
だからこの3時間の間に落とすか取られるかしたのだろうが、ドコで紛失したかまったく見当がつかなかった。
京都についてから散々駅ビル内や神社を歩き回った。慣れない土地だ。地名や建物名もろくにおぼえていない。
ここで読者諸君は疑問に思うだろう。何故、珠紀と真弘は京都にいるのか、と。
それを説明するには、真弘の恥ずかしすぎて悲しい大学生活事情を語らなければならない。
というのも、真弘はもう3年だというのに単位不足で留年しそうなのだ。
成績表が届くのが春休みの最後の週という、ある意味焦らしプレイ満載な真弘先輩が通う大学は、規定単位に満たなければ、決して次の学年にあがれないシステムによって構築されている。
真弘先輩は言った。
「留年するくらいだったら辞めてやる。」と。
珠紀は散々止めたが、真弘曰く、珠紀と同学年になるのが許せないらしい。
真弘らしいといえばそうだが…ちょっと将来に不安を感じずには居られない珠紀だった。
珠紀だけでなく両親の説得にもまったく耳を貸さなかった真弘は、春休みが終盤に差し掛かった頃、こんなことを言いはじめた。
「どこかに旅行に行こう。」と。
大学を辞めてしまったら就職せざるを得ない。
就職するということは、自由な時間がなくなってしまうことを意味している。
だから、最後になるかもしれない春休みを二人の思い出に残るものにしたいという真弘の希望で、遠路はるばる京都にやってきたのだ。
美鶴が必死に「旅にお供します!二人きりになんてさせられませんっ!」と、大きな風呂敷を背負って玄関先から裸足で追いかけて来るのを振りほどくのは大変だった。
珠紀は申し訳なくて振り返ることが出来なかったのだが、真弘いわく、美鶴は鬼の形相だったらしい。
そこまでして(?)出てきた京都で携帯を紛失するのは、不幸としかいいようがないだろう。
「しかたねぇな。」
真弘は心底不機嫌そうな声をとどろかせ、むんずと目の前に詰まれたバーガーを一つ手に取った。
あれよあれよという間に一つをたいらげると、二つ目、三つ目、四つ目までも、ぺろりと食べてしまう。
その間僅か2分に満たなかっただろうが。
少なくとも珠紀には相当早く感じられた。
「ぼさっとしてないでさっさと食べろ、探しにいくぞ。」
「…え。」
「えっ、じゃねぇよ!とにかく早く食え!」
「は、はいっ。」
周囲の視線もなんのその。
鋭い眼光で急かしてくる真弘に従い、チーズバーガーとシャカシャカなんとやらを口の中に運ぶ。
よほど気落ちしているのか、喉に引っかかる感じがした。味なんてほとんど分からない。
もそもそと珠紀が2品目を咀嚼している間にも、真弘は自分の携帯を取り出してどこかの番号に電話しているようだった。
けれども繋がらなかったようで、不機嫌そうに舌打ちし、乱暴にジーパンの後ポケットにねじ込む。
「食ったか?」
「はい。」
「よし、行くぞ。」
ガタンと乱暴に席を立つと、珠紀が付いてくるのも確認せずに地下から出て行く。
机の上には、丁寧に折りたたまれた二つの紙と、くしゃくしゃになった4つ分のバーガーの紙が乗った盆が一つ残されている。
残骸を片付けるのはいつも珠紀の役目だ。
ダストボックスにお盆ごと突っ込んでゴミをふるい落とし、お盆だけを引っこ抜いてボックスの上に乗せる。
携帯が無いから万が一はぐれたら面倒なことになるなと思いつつ、珠紀は地下から地上へと続く階段を上った。
更にそれが貴重品であるならば、とんでもない打撃となる。
珠紀はまさに今、その不幸な事態に直面していた。
「…携帯が、無い。」
小さな呟きに、真弘はものすごく幸せそうな顔を一瞬にして不機嫌で彩り、視線を正面に置かれたハンバーガーの山から珠紀に移した。
ここは京都駅のすぐ近くにあるハンバーガーショップ。
都会特有の狭いスペースを活用するべく地下に設置された客席で、真弘は一番安いバーガーを4つも注文して、今まさに食べようとしていたところだ。
ちなみに珠紀はチーズバーガーと最近発売されたシャカシャカなんとやらの2品目をセレクトしたが、携帯を無くしたショックのせいか、目の前の2品目はちっとも喉を通りそうになかった。
「ドコで落とした?」
「…分かりません。」
二人が京都駅についてからもう5時間は経過している。
珠紀が最後に携帯を弄った記憶は、2時を過ぎた頃。
だからこの3時間の間に落とすか取られるかしたのだろうが、ドコで紛失したかまったく見当がつかなかった。
京都についてから散々駅ビル内や神社を歩き回った。慣れない土地だ。地名や建物名もろくにおぼえていない。
ここで読者諸君は疑問に思うだろう。何故、珠紀と真弘は京都にいるのか、と。
それを説明するには、真弘の恥ずかしすぎて悲しい大学生活事情を語らなければならない。
というのも、真弘はもう3年だというのに単位不足で留年しそうなのだ。
成績表が届くのが春休みの最後の週という、ある意味焦らしプレイ満載な真弘先輩が通う大学は、規定単位に満たなければ、決して次の学年にあがれないシステムによって構築されている。
真弘先輩は言った。
「留年するくらいだったら辞めてやる。」と。
珠紀は散々止めたが、真弘曰く、珠紀と同学年になるのが許せないらしい。
真弘らしいといえばそうだが…ちょっと将来に不安を感じずには居られない珠紀だった。
珠紀だけでなく両親の説得にもまったく耳を貸さなかった真弘は、春休みが終盤に差し掛かった頃、こんなことを言いはじめた。
「どこかに旅行に行こう。」と。
大学を辞めてしまったら就職せざるを得ない。
就職するということは、自由な時間がなくなってしまうことを意味している。
だから、最後になるかもしれない春休みを二人の思い出に残るものにしたいという真弘の希望で、遠路はるばる京都にやってきたのだ。
美鶴が必死に「旅にお供します!二人きりになんてさせられませんっ!」と、大きな風呂敷を背負って玄関先から裸足で追いかけて来るのを振りほどくのは大変だった。
珠紀は申し訳なくて振り返ることが出来なかったのだが、真弘いわく、美鶴は鬼の形相だったらしい。
そこまでして(?)出てきた京都で携帯を紛失するのは、不幸としかいいようがないだろう。
「しかたねぇな。」
真弘は心底不機嫌そうな声をとどろかせ、むんずと目の前に詰まれたバーガーを一つ手に取った。
あれよあれよという間に一つをたいらげると、二つ目、三つ目、四つ目までも、ぺろりと食べてしまう。
その間僅か2分に満たなかっただろうが。
少なくとも珠紀には相当早く感じられた。
「ぼさっとしてないでさっさと食べろ、探しにいくぞ。」
「…え。」
「えっ、じゃねぇよ!とにかく早く食え!」
「は、はいっ。」
周囲の視線もなんのその。
鋭い眼光で急かしてくる真弘に従い、チーズバーガーとシャカシャカなんとやらを口の中に運ぶ。
よほど気落ちしているのか、喉に引っかかる感じがした。味なんてほとんど分からない。
もそもそと珠紀が2品目を咀嚼している間にも、真弘は自分の携帯を取り出してどこかの番号に電話しているようだった。
けれども繋がらなかったようで、不機嫌そうに舌打ちし、乱暴にジーパンの後ポケットにねじ込む。
「食ったか?」
「はい。」
「よし、行くぞ。」
ガタンと乱暴に席を立つと、珠紀が付いてくるのも確認せずに地下から出て行く。
机の上には、丁寧に折りたたまれた二つの紙と、くしゃくしゃになった4つ分のバーガーの紙が乗った盆が一つ残されている。
残骸を片付けるのはいつも珠紀の役目だ。
ダストボックスにお盆ごと突っ込んでゴミをふるい落とし、お盆だけを引っこ抜いてボックスの上に乗せる。
携帯が無いから万が一はぐれたら面倒なことになるなと思いつつ、珠紀は地下から地上へと続く階段を上った。
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