虹色の閃光が瞬いたと思った。
目を突き刺すようなまぶしさは痛みを伴って、思わず腕で顔を隠さずにはいられない。
何が起きてるか、のんきに説明できる状況じゃなかった。
ただ一つ分かること。
あの開けてはいけないボールをうっかり開いてしまったら、こんなことになったのだ。
とっさに目を閉じていなければ、今頃失明していたかもしれない。
目が見えなくなっていたかもしれないという恐怖と、今目の前で何が起きているか分からない恐怖が入り混じって、皮膚を泡立たせる。
背筋を薄ら寒いものが駆け上っていった。ああ、非常に不快だ。
一体どれ位の間、こうやって腕で顔を覆っていただろう。
サク……
地を、草を。
サク…
大地を踏みしめる足音が聞こえる。
ボクはとっさに手を腰に伸ばした。指先に触れる確かな感触。それはモンスターボール。これでいつでもポケモンを繰り出せる。
目を覆っていた腕が離れても、今はまぶしさを感じない。もう、あの謎の閃光は収まったようだ。
それでも、目を開くのは恐い。開いて自分の目が見えなくなっていたらショックだし、仮にまだ見えていたとしても、変な…例えば宇宙人のような未知なる生命体がたたずんでいたらどうしよう。
本当はこのまま眠って、次起きたときには今の出来事をすっかり忘れてのんきに背伸びなんかをしながら目覚めたい。けれど、現実ってのはそうは行かない。
仕方なく、ボクは瞼を開く。とにかく目の前に居るであろう何かが、見るに耐えない汚さでないことを祈りながら。
「…。」
ボクは硬直した。見るに耐えない汚い物体を見たわけではない。むしろその逆だった。逆すぎて反応できなかった。
今だかつて出会ったことが無いほどの(といってもボクはまだ10才そこらなわけだけど、まぁそこらへんはツッコミ無しでよろしく)綺麗な少女が、戸惑うような表情でボクを見ていた。
「えっと。」
風がふわりと舞い込んでくる。彼女の長くて細い髪が、風に揺れて一本一本舞い上がった。
ふと、つい先日宿泊したポケモンセンターのテレビでやっていた、シャンプーとリンスの新商品のCMを思い出した。
モデルの長髪がなびくのが印象的なCMだったけど、あのモデルよりも、今ボクの目の前にいる少女が出たほうが絶対売れる、と断言したい。
彼女はボクから見てみればとっても綺麗だったけど、まだ未成年らしい可愛い顔つきでもあった。
年は10代の中ごろと思われる。ボクより年上なのは確実だ。
「あのー、もしもし?」
「…へ?」
先ほどから鈴を転がすような可愛らしい美声がたびたび聞こえていたけれど、それはどうやら彼女のもので、更にはボクに対する呼びかけだったらしい。そのことに気が付いて、うっかり情けない声を漏らしてしまう。
すると彼女は少し嬉しそうにはにかんだ。不安な表情もグッとくるものがあるけれど、この笑顔もたまらなく綺麗だ。…ボク、いつの間にこんなに親父臭くなってしまったんだろうか。
とにかく、この突然現れた美少女は、このボクの今までの価値観や人格をひっくり返してしまうほどの美貌の持ち主だった。
少女はゆっくりと歩いてくると、少しだけ中腰になってボクの顔を覗き込んでくる。
今気づいた。彼女はボクより背が高い。年のせいだと思うけど、格好がつかなくてちょっと凹んだ。
「あのね、一つ聞いてもいいかな?」
「はい。何ですか?」
この人にだったらスリーサイズだろうが好みの女性だろうが自分の手持ちポケモンの弱点だろうが、ついでにボクの父さんがM字はげになりかけていて悩んでいて、ボクもその遺伝子を詰んでるから今から悩んでいることまで話してもいい。
とびっきりの内緒まで話すつもりでいたボクに、彼女は困ったような笑みを向けて一言。
「ここ、ドコ?」
飛びっ切りの美少女は、迷子だった。