2009'11.20.Fri
鼻先に一滴の細かい雨が触れたと思った矢先のことだった。
周囲の音を全て掻き消してしまうほどの豪雨が、空から大地に降り注いでくる。
何故こういうときに限って、自分はただっぴろい大草原のど真ん中にいるのだろう。
一瞬にして頭の先からつま先までずぶぬれになってしまったゴールドは、全ての手持ちポケモンをボールの中に戻して、一人呆然と立ち尽くした。
目に雨が入らないよう、無造作にかけた頭のゴーグル(本人としてはきちんと付けているつもりである)を目元に下ろして、来た道を振り返る。
振り返らずとも、今しがた自分がスケボーを滑らせながらやってきた道だから、延々と草原だけが続いていることも分かっている。
それでも、この突然の豪雨を凌げる何かを探せずにはいられない。
かといって、これまで歩いてきた道のりにいきなり建物や洞穴が出来るはずは無く。
やはり雨宿りを出来そうな場所は皆無だった。
「オイオイ。くるみちゃんの天気予報では晴れって言ってたのによぉ。」
だから、わざわざ家から遠い草原に足を運んだっていうのに―――。
小さなつぶやきは、豪雨にかき消されて彼のボールの中の相棒たちには届かない。
本当なら今日は、晴れた空の下、ポケモンたちと一緒にピクニックをする予定だったのだ。
だから背中にかけたリュックにはお弁当や水筒やシートが入っているし、ポケモンたちの餌だって入っている。
家の近くの空き地や野原は散々行きまくったから、今日くらいはリニアに乗って遠方の草原に行くのもいいだろう―――。
そう思ってリニアに乗り、ここまで来たというのに、ついて少ししたらこの豪雨だ。
こういうのを、“ついていない”というのだろう。
「男前がいっそう男前になるのはいいが、風邪を引いたらファンが泣いちまうな。」
そんなファンが本当に居るか居ないかは別として、ゴールドは足元のすっかり濡れてしまったスケボーを蹴り上げ、頭の上に乗せて屋根代わりにする。
すでに濡れてしまっているからほとんど意味は無かったが、気休め程度にはなるだろう。
本当はさっさとスケボーで来た道を戻りたいところだが、ずぶ濡れのボードの上でうっかり足を滑らせて怪我をすることを思えば、普通に歩いたほうが安全だ。
そう思って、来た道を自分の足で戻り始める。
背中に背負った鞄の中身とポケモンたちのことを思うと後ろ髪を引かれるが、この豪雨はちょっとやそっとじゃ止みはしないだろう。
大人しく家に帰るのが吉、そう思ったときのことだった。
「ウインディ、“にほんばれ”!」
少し落ち着きのある少女の声が、後方から飛んでくる。
瞬間、ゴールドは背中に膨大な熱量を感じ、あわてて振り向き、そして見た。
少し離れた場所に、体躯の良いウインディの背に乗った少女がいる。
そのウインディを中心に、あれだけ降りしきっていた豪雨が一瞬にして蒸発、霧散していく。
「大変、もうそんなに時間が無いわ。」
少女があせったように腕時計を見て、言った。
それを聞き、彼女を背に乗せたウインディは前足で地面を擦り、猫のようにググっと体を伸ばす。
「ウインディ、“しんそく”でお願い。」
少女がウインディに指示を出すのと、ウインディの体がはじかれたパチンコ玉のように駆け出したのは、ほぼ同時だった。
ゴールドの横を、それこそ神速と呼ぶにふさわしいスピードで、少女を乗せたウインディが駆け抜けていく。
あっという間の出来事に、声を出すことも瞬きをする暇さえも無い。
数秒後にはっとして向き直るも、少女を乗せたウインディは、草原の遥か彼方にすら見えなかった。
一瞬のつむじ風のような勢いに頭の整理が追いつかず、立ち尽くす。
頭の中に残った連続写真のような一こま一こまを再生してみれば、よみがえるのは、堂々としたウインディと整った少女の顔。
―――なんて綺麗な人だったんだろう。
頭に浮かんだ無意識の想いにはっとなり、首を振る。
自分が好きなのはクルミちゃんなのだ。ほかの女性にときめいている場合ではない。
けれども…―――。
ふと、自分の心音が早まっていることに気がつく。
ウインディの“にほんばれ”によって周囲の気温が上がったせいだろうか。
あるいは、彼女を思い出すことが、胸の鼓動を早まらせているのか。
後者の考えに、目を閉じて頭を振る。
「まさか、このゴールド様が一目ぼれなんてするわけねーよな。」
誰も居ない草原に、思わず漏れる独り言。
いつの間にか止んだ雨のお陰で、今度は腰のポケモンたちにも、その声が届く。
数匹が茶化すようにボールの中から鳴いたが、ゴールドは聞こえないフリをした。
ゴーグルを頭にズリ上げて、遥か草原の彼方を見やる。
もう後姿さえ見ることは叶わないが、記憶の中に、彼女の姿と声は焼きついている。
また、会いたい。
そう思った。
その後ゴールドは晴れた空の下でポケモン達とピクニックに耽るわけだが、同時刻、クルミの特別番組のゲストがあの少女であることを、青空の下の彼は知る由も無い。
周囲の音を全て掻き消してしまうほどの豪雨が、空から大地に降り注いでくる。
何故こういうときに限って、自分はただっぴろい大草原のど真ん中にいるのだろう。
一瞬にして頭の先からつま先までずぶぬれになってしまったゴールドは、全ての手持ちポケモンをボールの中に戻して、一人呆然と立ち尽くした。
目に雨が入らないよう、無造作にかけた頭のゴーグル(本人としてはきちんと付けているつもりである)を目元に下ろして、来た道を振り返る。
振り返らずとも、今しがた自分がスケボーを滑らせながらやってきた道だから、延々と草原だけが続いていることも分かっている。
それでも、この突然の豪雨を凌げる何かを探せずにはいられない。
かといって、これまで歩いてきた道のりにいきなり建物や洞穴が出来るはずは無く。
やはり雨宿りを出来そうな場所は皆無だった。
「オイオイ。くるみちゃんの天気予報では晴れって言ってたのによぉ。」
だから、わざわざ家から遠い草原に足を運んだっていうのに―――。
小さなつぶやきは、豪雨にかき消されて彼のボールの中の相棒たちには届かない。
本当なら今日は、晴れた空の下、ポケモンたちと一緒にピクニックをする予定だったのだ。
だから背中にかけたリュックにはお弁当や水筒やシートが入っているし、ポケモンたちの餌だって入っている。
家の近くの空き地や野原は散々行きまくったから、今日くらいはリニアに乗って遠方の草原に行くのもいいだろう―――。
そう思ってリニアに乗り、ここまで来たというのに、ついて少ししたらこの豪雨だ。
こういうのを、“ついていない”というのだろう。
「男前がいっそう男前になるのはいいが、風邪を引いたらファンが泣いちまうな。」
そんなファンが本当に居るか居ないかは別として、ゴールドは足元のすっかり濡れてしまったスケボーを蹴り上げ、頭の上に乗せて屋根代わりにする。
すでに濡れてしまっているからほとんど意味は無かったが、気休め程度にはなるだろう。
本当はさっさとスケボーで来た道を戻りたいところだが、ずぶ濡れのボードの上でうっかり足を滑らせて怪我をすることを思えば、普通に歩いたほうが安全だ。
そう思って、来た道を自分の足で戻り始める。
背中に背負った鞄の中身とポケモンたちのことを思うと後ろ髪を引かれるが、この豪雨はちょっとやそっとじゃ止みはしないだろう。
大人しく家に帰るのが吉、そう思ったときのことだった。
「ウインディ、“にほんばれ”!」
少し落ち着きのある少女の声が、後方から飛んでくる。
瞬間、ゴールドは背中に膨大な熱量を感じ、あわてて振り向き、そして見た。
少し離れた場所に、体躯の良いウインディの背に乗った少女がいる。
そのウインディを中心に、あれだけ降りしきっていた豪雨が一瞬にして蒸発、霧散していく。
「大変、もうそんなに時間が無いわ。」
少女があせったように腕時計を見て、言った。
それを聞き、彼女を背に乗せたウインディは前足で地面を擦り、猫のようにググっと体を伸ばす。
「ウインディ、“しんそく”でお願い。」
少女がウインディに指示を出すのと、ウインディの体がはじかれたパチンコ玉のように駆け出したのは、ほぼ同時だった。
ゴールドの横を、それこそ神速と呼ぶにふさわしいスピードで、少女を乗せたウインディが駆け抜けていく。
あっという間の出来事に、声を出すことも瞬きをする暇さえも無い。
数秒後にはっとして向き直るも、少女を乗せたウインディは、草原の遥か彼方にすら見えなかった。
一瞬のつむじ風のような勢いに頭の整理が追いつかず、立ち尽くす。
頭の中に残った連続写真のような一こま一こまを再生してみれば、よみがえるのは、堂々としたウインディと整った少女の顔。
―――なんて綺麗な人だったんだろう。
頭に浮かんだ無意識の想いにはっとなり、首を振る。
自分が好きなのはクルミちゃんなのだ。ほかの女性にときめいている場合ではない。
けれども…―――。
ふと、自分の心音が早まっていることに気がつく。
ウインディの“にほんばれ”によって周囲の気温が上がったせいだろうか。
あるいは、彼女を思い出すことが、胸の鼓動を早まらせているのか。
後者の考えに、目を閉じて頭を振る。
「まさか、このゴールド様が一目ぼれなんてするわけねーよな。」
誰も居ない草原に、思わず漏れる独り言。
いつの間にか止んだ雨のお陰で、今度は腰のポケモンたちにも、その声が届く。
数匹が茶化すようにボールの中から鳴いたが、ゴールドは聞こえないフリをした。
ゴーグルを頭にズリ上げて、遥か草原の彼方を見やる。
もう後姿さえ見ることは叶わないが、記憶の中に、彼女の姿と声は焼きついている。
また、会いたい。
そう思った。
その後ゴールドは晴れた空の下でポケモン達とピクニックに耽るわけだが、同時刻、クルミの特別番組のゲストがあの少女であることを、青空の下の彼は知る由も無い。
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